18 北の森のダンジョン/闇魔法の目覚め/LV8
北の森のダンジョンは、敵を倒しながら森の深奥のボスを目指す、森林タイプのダンジョンだ。
ブランシュたちは、出発前に、攻略の方針を共有した。
まず、第一の目的は、ブランシュのレベルアップ。
魔王を倒すためには全員のレベルアップが必要だが、一番レベルが低いブランシュの底上げが急務だった。
戦術は、サシャとユーグが軽く物理攻撃を加え、ブランシュが水魔法でとどめを刺す。
ケヴィンは、状況に応じ、ブランシュに防御力や魔法攻撃力強化のバフをかける。
ちなみに、ブランシュが、聖魔法もたくさん使ってレベルアップを図りたいと言ったら、速攻で却下された。
「回復魔法をかけて、倒れたと伺っています。ダンジョンの中で倒れる危険は犯せません。攻略終了後、一日に一度、試すことにしましょう」
ケヴィンの言っていることはその通りなので、おとなしく従うしかない。
ベースキャンプを出発して森の中心を目指し、迷路のような森を抜けて、その過程でレベルアップを図る。
周回も五回を超え、ボス戦でも、側近三人の協力を経て、どうにかブランシュの最後の一撃で倒せるレベルとなった。
順調に、魔法の攻撃力は上がっている。
使える水魔法と風魔法の位階も一段階ずつ上がっている。
しかし。
<なあ、なんで聖女見習いのままなんだあ? ステータスに聖魔法が出ねえし>
「傷つくことストレートに言わないで」
ベースキャンプで、一日の終わりに聖魔法を試すのは、ブランシュとギィの日課だ。
今日も、聖属性付与の第一階位聖魔法セイクリッド・ギフトの練習をし、失敗して腕に水膨れを作った。
なぜかブランシュには回復がきかないので、そのあと、サシャにもらった回復薬を腕に塗るところまでがセットだ。
やり方が悪いのかと、魔法使いのケヴィンに訓練の仕方を見てもらったこともあるが、「方法は間違っていません。練習するしかないですね」との回答だった。
ちなみに、キマイラ襲来の時に、サシャとユーグの攻撃力が上がっていた件については、誤解だった。
第三階位聖魔法セイクリッド・ブレスに覚醒したのかと期待したのだが、これは単純にサシャとユーグの実力だったそうだ。
そううまくいくはずがない。
うぬぼれだった。はずかしい。
もう、ブランシュは、自分のできることをただ練習するしかないのだ。
「なあ、その魔法、ほんとに必要なの? ほいこれ」
「サシャ、ありがと」
サシャが、火であぶった串に刺した肉を差し出してくれたので、ブランシュはそれを受け取った。
野営が始まってからは、貴族令嬢の礼儀作法は端に追いやっている。
「あのね、聖属性付与がないと、敵が強くなるについれて、攻撃が通らなくなってくるの」
「ええ? 俺ら強いじゃん?」
「そうね。だけど、魔王の強さはけた違いなの。聖属性付与で魔の属性に対する攻撃の効果を何倍にもしないと、倒すことは難しいわ。そもそも、女神さまがギィを使わせたのは、その力を私たち人間に与えるためだったんだから」
「ふーん。人間にねえ」
「でも。このままだと、この魔法が使えない可能性を本気で考えなくちゃいけないかも。聖剣を早めに取りに行った方がいいのかしら?」
ブランシュが悩んでいると、木の椀に入れたスープを持って、ケヴィンとユーグもやってきた。
ちなみに、一日の最後に、食事をしながら、彼らに回復の魔法をかけ、ステータスを確認するのも日課の一部である。
「ステータス・オープン」
名前:ブランシュ
ジョブ:聖女見習い
レベル:7→8
体力:300 → 330
魔力:200 → 220
魔法攻撃力:110 → 120
所持魔法:第四階位水魔法、第三階位風魔法、第一階位闇魔法
スキル:なし
ステータス画面に映った、初めて見る文字に、思わず息をのむ。
<おい、ブランシュ、これ……>
「ねえ、ケヴィン。第一階位の闇魔法って、どんなものか教えてもらっていい?」
「はい。ダーク・インパクト、闇属性の衝撃波を放つ魔法です……が、それが?」
「ダーク・インパクト……」
ブランシュは、その魔法を想像してみた。
(闇の衝撃波。闇の力を凝縮し、それを貯めて、放つ、衝撃波……)
「おやめください! ブランシュ! それはいけません」
ケヴィンに肩を揺さぶられて、我に返った時には遅かった。
ブランシュの体から、あふれ出たその力は、制御もできず、行き場を失い、ただ前方へ向けて、はじかれたように放たれる。
赤黒い光に包まれたその力は、森に向けて放たれ、木々をなぎ払う轟音を周囲に響かせた。
すぐそばにあった森の木々は幅三メートル、奥行きは、百メートル近く先までなぎ倒されていた。
「ぐっ」
すぐそばからうめき声が聞こえ、ブランシュは、そこにうずくまるケヴィンの姿を見た。
ケヴィンの左腕は、あらぬ方向へ折れ曲がっていた。
ケヴィンのけがが、自分のせいなのがわかる。
「ごめんなさいっ。すぐに回復を」
ブランシュは、ケヴィンの腕に回復をかけようとしゃがみこんだが、すぐにその手を払われる。
「いらぬっ! お前が、お前などが、あの方の力を無駄にっ」
「ケヴィン」
ユーグが、低い声でケヴィンを制すると、ケヴィンは、口をつぐんで、ブランシュから目をそらした。
「ブランシュ、頼む」
ユーグに促され、ブランシュは、彼の腕に手を添え、祈るように小さく、セイクリッド・キュアと唱える。
ケヴィンの腕は、みるみる元の形を取り戻し、ブランシュはほっとした。
「あの、ケヴィン、けがをさせてごめんなさい。私が、よくわからずに……」
「それは、お前などが触れてはいけない力だ!」
「決めるのは、主だ」
ケヴィンの言葉に、ユーグが真っ向から反論する。
ブランシュには、彼らが何を言い争っているのかわからない。
(私、多分、今、闇魔法を使ったのよね?)
その時、サシャがあわてたように、声を発する。
「おい、やばっ。今ので、ダーク・ハイディングが破れた」
「……」
「奴らを呼び寄せる極上の魔力だからな」
アイアンクロー、戦斧、魔法の杖を構える彼らの陰で、ブランシュは、ようやくその事態を悟る。
森の奥から現れたのは、巨大で筋肉質の体を持ち、角と牙を備えた醜悪な顔立ちをした巨人たちだった。
手にはこん棒や斧を持ち、咆哮をあげる彼らは──。
(最低クリアレベル23、西のダンジョンの中ボス)
ハイオーガの、群れ、だった。




