009 大規模農園
翌日、俺たち三人はクランハウスから一番近い冒険者ギルドへと足を運んだ。
ヒゲオヤジの隠れ家ギルドに行かなかったのは、上位の依頼を押し付けられそうだ、なんてことを考えたからでは決して無い。
いつもなら依頼を受注するプレーヤーたちでごった返しているはずのギルド内は、不気味なほどに静まり返っていた。閑古鳥が鳴くとはまさにこのことだ。
俺たちを見た受付嬢がビクッと肩を震わせる。クレーマーと化したプレーヤーがトラウマとなっているようだ。作り笑顔を振りまき、手を振っておく。
「この状況で、積極的に依頼をこなそうなんてヤツはいないか……」
依頼掲示板を見上げながら、ぽつりと呟く。誰もが現状の把握と自身の安全確保に手一杯で、外に出てモンスターを狩るような精神状態ではないのだろう。
「依頼が山のように溜まってるな」
掲示板を確認していたシュウが、眉をひそめる。
「それにしては、農産物の納品系の依頼ばかりだな」
「……物資がもう、枯渇してるってことか!?」
テツの言葉に、シュウがハッとしたように声を上げる。
「野菜なら、俺のアイテムボックスに山ほど入ってるぞ?」
「いや、多分お前の個人資産だけじゃすぐに足りなくなる」
シュウは深刻な顔つきで首を振った。
「ゲームだった頃は食事なんてフレーバーみたいなもので、食べなくても問題なかった。だが、今は違う。プレーヤー全員が毎日三食を食べるんだ。需要と供給のバランスが完全に狂った」
「俺達がこの世界に来るからといって、俺達の分まで生産してくれてたわけじゃないということか。それに……」
テツが顎をさすりながら、ギルドの外をチラリと見た。
「この得体の知れない不安感から、買い占めに走る者、高値で売ろうと売りしぶる商人、転売目的で動く者もいるだろうな。間違いなく、急激なインフレが起こる。そうなれば被害を受けるのは資産の少ない初心者と住人達だ」
「確かに。もうすでに納品依頼の報酬額が、普段より上がってるな」
このまま放置すれば、王都は遠からず飢えに包まれるだろう。
シュウが、すがるような視線を俺に向けた。
「ゲン、お前のスキルで農産物の大量生産ってできるか?」
「……安心安全なスローライフのためにも、やるしかないか」
王都のクランハウスからさらに離れた、郊外のそのまた郊外。
ここは以前、俺がとある目的で購入したものの、結局ほったらかしになっていた広大な荒れ地だった。さらに先ほど、冒険者ギルドで隣接する売地も買い足してきたため、見渡す限りの広大な土地が俺の所有物となっている。
「さてと、いっちょ大規模農園を始めますかね。まずは、炎魔法『ファイアー・ウェーブ』!」
目の前の荒野の雑木と雑草が炎の波に飲み込まれ一瞬にして灰と化す。
「続けて土魔法『アース・コントロール・耕作』!」
灰に覆われた大地が耕されていく。
土魔法を農業用にアレンジしたオリジナル魔法だ。
「焼畑農業か?」
「最初だけだよ、今は草刈りの時間も惜しいからな」
俺は近くの岩に腰を降ろすと、テイムしたモンスターを入れておく『モンスターボックス』をアイテムボックスから取り出し開放する。
ポンッ、ポンッ、ポンッ! と小気味良い音とともに、土の精霊『ノーム』たちがわらわらと姿を現した。その数、百体。
「……ずいぶん出したな」
「ああ、一人で操作できる限界数だ」
俺はステータスウィンドウを展開すると、百体のノームたちに指示を書き込んでいく。
「実は随分前に大規模農園に挑戦してみてな、『質』と『量』の両方を求めた結果、タスク管理地獄になって、何でゲームで仕事並に頭使わないかんねん!ってなって放置したんだよ。今回は完全に量に割り切るから楽なもんだ」
「それで、いつ頃出荷できそうなんだ?」
シュウの問いに、俺はウィンドウを操作したまま答えた。
「出荷は明日からだ」
「明日!?」
「ああ。ノームたちの植物成長魔法を利用して、すぐに収穫できるようにする。まずは飢餓の救世主ジャガイモ! 計算上は一日100トン収穫できるはずだ」
「100トン!?」
「ふっふっふっ、手塩にかけて育てたカンストレベルのノーム達の力を見せてやろう。ジャガイモの後は、小麦、大豆、さつまいも、小麦、大豆。これをワンセットで繰り返す」
「内政系ラノベでお馴染みの『ノーフォーク農法』の変則版だな。放牧はしないのか?」
「本当ならやりたいが、市場が落ち着くまでは、大豆の根粒菌の力を信じる。よしセットアップ完了! ノーム達よ王都をジャガイモで支配するぞ!」
指示を受け取った百体のノームたちが一斉に散らばり、凄まじい速度で畝を立て、ジャガイモを植えて植物成長魔法を発動させる。
「ゲン、俺にも何か手伝えることはないか?」
「そうだ! テツにはノーム達の家と寝床を用意してほしい。しっかり休息をとらせないとモチベーションが下がるからな」
「分かった。しっかり疲れが採れるように立派な宿舎とベッドを用意しよう」
テツが腕を鳴らす。
「それで、シュウにも頼みたいことがあるんだが」
「お! 何だ? 言い出しっぺは俺だからな、できることならなんでもやるぜ」
「シュウには、ノームたちの『食事』を頼みたい。あいつらも働けば腹が減るし、美味い飯があればモチベーションも上がるからな」
「了解した。腕によりをかけて料理するさ」
「頼んだぜ! それじゃ、俺も野良仕事をしますかね」
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