010 ジャガイモ
翌日、俺は裏路地にある隠れ家ギルド支部を訪れた。
目的は、ヒゲのオヤジさんことギルドマスターに、収穫した作物の流通を相談するためだ。
「オヤジさん、ジャガイモを作ったから市場で売ってくれないか?」
カウンター越しに声をかけると、オヤジさんはジョッキを拭く手を止めて頷いた。
「おう、構わねぇぜ。で、どれくらい作ったんだ?」
「100トンだ。毎日出荷できるぞ!」
百体のノーム達のおかげで、計算通り一日100トンの収穫に成功したのだ。これで王都の食糧危機も解決に向かうだろう。
「100トン!?」
オヤジさんが驚くより先に、店内の奥から若い女性の甲高い声が響き渡った。
「え!? だれ?」
「ああ、新しく雇った新米冒険者の嬢ちゃんだ。店の前で空腹で倒れててな、ほっとく訳にもイカンから三食くわせてやる代わりに働いてもらってるんだよ」
俺が目を丸くしていると、オヤジさんが顎をさすりながら紹介してくれた。店の奥から、エプロン姿の若い女性プレイヤーがツカツカと歩み寄ってくる。
「マスター! 嬢ちゃんは、やめてください。リンって呼んでください!」
彼女――リンはオヤジさんにビシッと抗議すると、今度は勢いそのままに俺の目の前まで詰め寄ってきた。
「ちょっとそこのおじさん! ジャガイモ100トンを毎日、市場に流すつもりですか!? 市場を崩壊させるつもりですか!?」
「え!? いや、そんなつもりはないけど……そんなに多かったか?」
「多いです! この規模の都市ですよ!? 毎日100トンも出荷したら、あっという間に価格崩壊して、王都の農家に近隣の農村が全滅しちゃいますよ!」
「え! まじで!?」
俺は滝のような冷や汗をかいた。需要と供給のバランスが狂い、物資が枯渇し始めている状況をどうにかしようと、質より量に割り切って大規模農園を稼働させたのが完全に裏目に出たらしい。良かれと思った行動が、現地の一次産業を根絶やしにする大惨事を引き起こすところだった。
「ど、どうしよう……」
「ふっふっふ、どうやら、お困りのようですね」
頭を抱えておろおろする俺を見て、リンは得意げに胸を張った。
「大学は経済学部で統計学を学び、農産物卸売会社で期待の新人と噂されていたこの私が、市場崩壊させずに高値で売り捌いてあげましょう! 手数料は20%でいいですよ!」
ババーンと効果音が聞こえてきそうなドヤ顔で言い放つリン。
どうやら彼女は、リアルで農産物の卸売の仕事をしていたらしい。農産物を作ることしかできない俺にとって、これほどありがたい人材はいない。
「いや、俺としては別に儲けるつもりはないんだ。買い占めとかで高騰した市場価格を元に戻したいだけなんだけど……」
「あら? 欲が無いわね」
リンはキョトンとした顔になり、まじまじと俺の顔を覗き込んだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もしよろしければ、『ブックマーク』と『星評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。
これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!
7:00・12:00・18:00に投稿予定。




