011 レベル1
俺はリンとフレンド登録を済ませると、アイテムボックスの『フレンド間転送システム』を利用して、ジャガイモ100トンを彼女に送った。
「これを一日で、本当にすごい量ね!」
「できるだけ早く市場が落ち着くように頼むな……ってレベル1!?」
フレンドに登録したリンのレベルを確認するとなんと、レベルが1だったのだ。
「そうなのよ。友達に誘われてアップデートに合わせて始めてみたらこのざまよ。ログアウトできないし、異世界転移するし、友達とは出会えないし、散々よ」
「それは、大変だったな」
「それじゃ、ジャガイモ以外の農産物も早く頼むわよ! ……でも、いくら上手く市場に流せたとしても、高騰した価格が元通りに落ち着くまでには、それなりの時間がかかるわよ?」
「そうだよな……。その間の飢えはどうにもならないか。……いっそ、炊き出しでもするか」
俺がふと口にすると、カウンターの奥でジョッキを磨いていたオヤジさんが身を乗り出してきた。
「炊き出しをしてくれるのか? そりゃあ助かる」
オヤジさんは深いため息をつき、渋い顔で窓の外へと視線を向けた。
「王都の住民で、まともな食事にありつけない連中が増えてきててな。少しずつ治安が悪くなってきてるんだ。……もし本気で炊き出しをしてくれるなら、教会の力を借りるといい。あいつらは、そういうのに慣れてるからな」
「なるほど、教会か。分かった、なんとか炊き出しの方向で動いてみよう」
オヤジさんに頷き返し、俺は再びリンに向き直った。
「それじゃリンちゃん、とりあえず明日は小麦を送るから」
計画を前倒しして小麦、大豆を栽培するようにすぐにタスク変更をしないといけないな。
俺の言葉を聞いたリンは、むっとしたように頬を膨らませた。
「子供扱いしないでください。リンって呼んでください」
「ははっ、分かったよリン。市場の方、頼んだぜ」
俺はひらひらと手を振り、隠れ家ギルドを後にした。
王都郊外のさらに郊外。大規模農園に戻り、ノーム達に小麦を栽培するようにタスク変更をした後、シュウとテツと会議を始める。
俺は早速、市場の価格崩壊を防ぐためにリンという助っ人に流通を任せたこと、そして王都の治安維持のためにも教会で炊き出しを行いたいことを二人に相談した。
「なるほど、炊き出しか……」
テツは腕を組み、思案する。
「確か、ゲーム時代、この王都の人口は約一万人。で、一つの都市に登録できるプレイヤーの上限も一万人だと聞いたことがある。……そのリンっていう新規プレイヤーが王都を最初の拠点に選べたということは、今現在、王都にいるプレイヤーは一万人以下ということか……」
「ってことは、王都の住人とプレイヤーを合わせて、最大二万人ってところか?」
俺が補足すると、隣でシュウがこめかみを押さえて天を仰いだ。
「二万人の炊き出しか……? 半分の一万人が来たとして、朝夕二食で二万食。全員来たら四万食。流石に俺一人じゃ無理だ」
うーーんと低く唸りながら、シュウは空中にステータスウィンドウを呼び出した。
「……とりあえず、フレンドリストの知り合いの料理人プレイヤーたちに声をかけてみるか。この状況を持て余してる奴もいるはずだし」
「悪いな、シュウ。材料は俺の方でなんとかするから」
「俺の方は木の器とスプーンを用意しておこう」
食糧生産のメドは立ち、流通のプロ(?)も確保した。次は最大二万人の胃袋を満たすための、超大規模な炊き出しプロジェクトだ。
おじさん三人の平穏なスローライフは、どうやらまだまだ先になりそうだ。
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