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006 オーバーツーリズム

裏路地に出ると、少しひんやりとした風が通り抜けた。

少し酔って火照った顔に涼しい夜風が心地よい。


「テツごちそうさん、次は俺が奢るから。それにしても……実際に酔いが回るってことは、やっぱりここはゲームじゃないんだな」

「そうだな。このあとはどうする? 少し町の様子を見ておくか?」


シュウが少し赤くなった顔で提案すると、テツも同意するように頷いた。


「そうするか。広場の様子も少し見ておきたいしな」






俺たちは、王都の中心である中央広場へと向かった。

広場に到着すると、怒号こそ消えていたものの、依然として多くのプレイヤーたちがそこに留まっていた。騒ぎ疲れたのか、それともこれから何をすればいいのか分からずに途方に暮れているのか、石畳の上に力なく座り込んでいる者が多い。

誰もが不安と絶望を顔に張り付け、重苦しい空気が広場全体を覆っていた。


「……なんか、声かけた方がいいんだろうけど……」


俯く者たちを見て、俺は思わず足を止めかけたが、すぐにシュウが俺の腕を引いた。


「やめとけ、やめとけ。最後まで面倒を見る覚悟がないなら、安易に声をかけるな」

「シュウの言う通りだ。心理学の専門家でもない俺たちが中途半端に関わるのは、逆に危険だぞ」

「……そうだな」


ドライだと思うが、もっともな正論に、俺は無言で頷き、広場から目を逸らした。

救世主になる気はない。俺たちの最優先事項は、自分たちの平穏な生活を守ることなのだ。






広場を抜け、近くの飲食店街へと足を運ぶと、そこは昼間のギルド以上の大混雑だった。


「こりゃあ、すごい混みようだな……」

「いきなり王都の人口が跳ね上がったんだ。無理もないさ」

「オーバーツーリズム状態だな。俺たちは郊外にギルドハウスがあるからいいが、宿が取れなかった連中は野宿か?」


テツの言葉に、俺は周囲を見渡した。どこもかしこも満席で、店の外まで長蛇の列ができている。


「これじゃ、飯にありつけないヤツもかなり多そうだな。……どうだ? 俺の料理スキルを活かして、屋台でも出すか?」

「いいアイデアだけど、シュウ、あれを見てみろよ」


俺が指を差した先では、ちょうど食材が尽きて店仕舞いをしようとしている屋台の店主に、数人のプレイヤーが詰め寄っていた。


『ふざけんな! こっちは金ならいくらでも払うって言ってんだろ!』

『は、早く何か出せよ! 腹減ってんだよ!』

『す、すまねぇ、もう本当に肉もパンも残ってねぇんだ……』


怒鳴り散らすプレイヤーたちに、現地の店主が怯えながら平謝りしている。


「……あんな奴らの相手をするのは、勘弁してほしいな」


シュウが心底嫌そうに顔をしかめる。テツも腕を組み、渋い顔で呟いた。


「このままだと、俺たちプレイヤーの評判が地に落ちそうだな……」

「これも昔のラノベの定番なんだけどな。転移者たちが現地の住民とトラブルを起こして対立し、結果的に物を売ってもらえなくなったり、街を追放されたりするっていう……。嫌なフラグがビンビン立ってるぞ」


「かと言って、俺たちが街角に立って『住民と仲良くしよう!』なんて演説したところで、あいつらが素直に聞くような連中だと思うか?」

「……無理だろうな」


テツが深くため息をつく。


異世界転移初日。

狂乱の渦にある王都の夜空を見上げながら、「前途多難だな」と、誰からともなく呟いた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

もしよろしければ、『ブックマーク』と『星評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。

これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!


7:00・12:00・18:00に投稿予定。

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