005 隠れ家ギルド
入り組んだ王都の裏路地を迷路のように進み、テツが立ち止まったのは、古びた木製の看板が下がる小さな木製の扉の前だった。
ギルドの紋章が刻まれているが、どこからどう見ても隠れ家的な飲み屋にしか見えない。
中に入ると、昼間だというのに薄暗く、麦芽と木の香りが漂っていた。表通りの喧騒が嘘のように、客の姿は一人もない。
「ここはどうやら空いてるな」
「まさに秘密の隠れ家ってやつだな。落ち着いてていい雰囲気だ」
「よくこんなところ知ってたな、テツ」
シュウが感心したように見回すと、テツは少し得意げに鼻を鳴らした。
「王都で珍しい建築物を探していたら偶然見つけてな。なかなかいい酒が揃ってるんだよ」
俺たちが入口付近で話していると、磨き上げられたカウンターの奥から、野太い声が飛んできた。
「おう、入口で突っ立ってしゃべってたら商売の邪魔だよ。入るか、帰るかしてくれ」
声の主は、見事な白ヒゲを蓄えた厳つい初老の男だった。太い腕を組み、鋭い眼光でこちらを睨んでいる。
テツは慌てることなくカウンターに歩み寄り、片手を上げた。
「オヤジさん、久しぶりだな。……俺のこと、覚えてるか?」
すると、ヒゲのオヤジは目を丸くし、次いでニヤリと豪快に笑った。
「おう、テツじゃねーか! 覚えてるに決まってるだろ。俺はまだボケてねーぞ!」
そのやり取りを見て、俺とシュウは顔を見合わせ、小さな声で会話をした。
(おい、NPCだった頃の『記憶』がちゃんとあるのか?)
(……そうらしいな。迂闊な発言はできないな)
「オヤジさん、今日はちょっと、いろいろ聞きたいことがあるんだがいいかい?」
「いいぜ。実は俺も、おめーさんに聞きてぇことがあったんだ。……どうせ飲んでくだろ? エールでいいか?」
オヤジさんが木製のジョッキを三つ並べ、樽からドロっとした液体をなみなみと注いでドンッと差し出した。
俺とシュウはジョッキを受け取り、よく冷えたビールを想像しながら喉に流し込んだ。
「「……んん!?」」
思わずむせる。炭酸はほとんどなく、常温に近い。そして何より、甘みと酸味が口いっぱいに広がった。
「なんだこれ、俺の知ってるビールじゃないぞ……? 」
「これ……マジの『エール』ってやつか。初めて飲んだ」
戸惑う俺たちを見て、テツがニヤニヤと笑いながら自分のジョッキを傾けた。
「ファンタジーっぽくていいだろ?」
一息ついたところで、テツが声のトーンを落とし、本題を切り出した。
「さっそくだが、オヤジさん。あんたら……『神様』から何か聞いているか?」
単刀直入な質問に、オヤジさんはジョッキを拭く手を止め、真妙な顔で頷いた。
「ああ、聞いてるぜ。神様は俺たちに『命』を与えてくださった。そして、おめーさん達が遊びに来るから、しっかりもてなしてやりなってな。……で、おめーさん達は、なんて言われたんだ?」
「この世界で、存分に遊んでいけと」
「そうかい……」
オヤジさんは布巾をカウンターに置き、大きなため息をついた。
「それにしては、表はお祭り騒ぎだな。おめーさんたちの『お仲間さん』達は、ずいぶんと騒がしいのが好きらしいな」
「……同郷の人間が迷惑をかけてすまない」
テツが申し訳なさそうに頭を下げる。だがオヤジさんは、「気にするな」とでも言うように手を振った。
「人間、いろいろだ。悪いヤツもいれば、おめーさん達みたいなヤツもいる。……まあ、派手に騒いで衛兵に盾突いたようなヤツらは、今ごろ揃って『牢屋』だろうよ」
その言葉に、俺達の背筋に冷たいものが走った。
「牢屋……ゲーム時代は住民に攻撃したりPKをすると衛兵に捕まってたが、この世界でも衛兵の機能が働いてるってことか」
「そうらしいな。下手な真似をしたら、ゲームのペナルティじゃ済まないぞ。俺たちも気をつけないとな……」
「そのあたりの制度も調べないといけないな」
俺たちは無言で深く頷き合った。
俺達は、エールとうまいツマミを楽しみながらオヤジさんと情報交換をした。
「……有益な情報を助かったよ。また来る」
「おう、おめーさん達ならいつでも歓迎するぜ」
オヤジさんはニカッと笑うと、顎で壁に掛けられたクエストボードをしゃくった。
「次は飲むだけじゃなくて、依頼も受けてくれると助かるがな」
「ははっ、また今度な」
テツが三人分の食事代をカウンターに置き、俺たちは隠れ家のようなギルド支部を後にした。
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