004 冒険者ギルド
食事を終えた俺たちは、情報収集のためにクランハウスから一番近くにある冒険者ギルドの支部へと足を運んだ。
しかし、石造りの立派な両開き扉をくぐった瞬間、鼓膜を劈くような怒号と喧騒に思わず顔をしかめた。
「ふざけんな! どうやってログアウトするんだ!」
「早く運営を出せ! こっちは週明けに重要な会議があるんだぞ!」
広いギルド内は、パニックに陥ったプレイヤーたちで完全に埋め尽くされていた。
誰も彼もが血走った目で受付窓口に殺到し、カウンター越しに身を乗り出して詰め寄っている。対応に追われる制服姿の受付嬢たちは、怯えきった表情で涙目になりながら「私どもには分かりかねます」「どうかお静まりください」と必死に頭を下げていた。
「……あーあ。理不尽な状況でパニックになるのは分かるが、ギルドの受付嬢に怒鳴り散らしたところでどうにもならないだろうに」
社会人としてクレーム対応の苦労を知っている俺は、心底同情しながら呟いた。
「こりゃあ、当分の間はまともに話を聞くのもダメそうだな。完全にクレーマーの群れだ」
「それより、あの受付の女の子たちの反応を見てみろ」
シュウが呆れたように言う横で、テツが鋭い目を細めてカウンターの奥を観察していた。
「恐怖で声が震えているし、怯えて肩をすくめる仕草も自然すぎる。どう見ても、ゲーム時代のAIって感じじゃない。完全に『人間』だ」
テツの言葉に、俺とシュウは息を呑んだ。
NPCがひとりの人間として生きている。それはつまり、この世界が本物の現実になってしまったという決定的な証拠でもあった。
俺たちは騒ぎの中心である受付窓口を避け、空いている壁際――クエストボードへと向かった。
ボードには、様々な依頼書が所狭しとピンで留められている。
「プレイヤーがこれだけ騒いでるのに、クエストは普通に出てるんだな」
俺が薬草採取やゴブリン討伐といった見慣れた依頼書を眺めていると、シュウが顎に手を当てて思案顔になった。
「なぁ。こういう展開で、住民からクエストを放置しておくと、後々取り返しのつかない大事件が起こる……ってのが、ラノベの定番展開なんだけど。どうする?」
フラグに対するメタ視点に、テツが重々しく頷いた。
「そういうことなら、受けないワケにはいかんだろう。俺たちの平穏なスローライフを守るための必要経費だ。……だが、やるのはザコ相手のクエストだけにしとこう」
「おいおい、俺たち一応レベル99でカンストしてるんだぞ。それがザコって……」
苦笑いする俺に対し、テツは真面目な顔で振り返った。
「ゲン、お前はこのリアルな身体、痛覚もある状況で、高レベルの巨大モンスターを相手にしたいか?」
「…………俺たち生産職だし、ザコ相手がお似合いだな」
俺は即答した。
巨大なドラゴンや凶悪なモンスターと、リアルな肉体で命がけの殺し合いをする。そんな恐ろしいこと、四十を過ぎたおじさんに耐えられるはずがない。「安全第一」と「適切なリスク管理」を最優先すべきだ。
「よし、方針は決まったな。でも……クエストを受けるにも、窓口があれじゃーな」
シュウが指差した先では、依然としてプレイヤーたちが怒号を上げ、受付カウンターは完全に機能不全に陥っていた。依頼書を受付に持っていってハンコを貰わなければ、クエストは開始できないシステムだ。
「はぁ……」
俺たち三人組は、人だかりができている窓口を見て、揃って深いため息をついた。
これでは安全第一のリスク管理すら始められない。
「……いや、待てよ」
何かを思いついたように、テツがポンと手を打った。
「あそこなら空いてるかもしれない。二人とも、ついてきてくれ」
そう言って、テツはギルドの出口へと歩き出した。俺とシュウは顔を見合わせると、テツを追って怒号が未だに響き渡るギルドを後にした。
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