003 スキル
クランハウスの隣に広がる家庭菜園に出ると、たわわに実ったトマトが太陽の光を浴びて輝いていた。俺の後ろには、シュウとテツもぞろぞろとついてきている。
「さて、まずは俺のスキルが今まで通り使えるかどうか、試してみますか」
『AWO』において、スキルはレベルを上げれば勝手に覚えるようなものではない。各地にいる師匠(NPC)に弟子入りし、出された課題をこなすことでようやく習得できるシステムだ。
俺が今から使うのは、制限時間内に大量の野菜を収穫するという、農家の達人の鬼畜なクエストを乗り越えて手に入れた愛用のスキルである。一度覚えてしまえば、ゲーム時代は楽に発動できたが、果たしてこの世界ではどうなるか。
俺はトマトの前に立ち、頭の中で強く念じた。
「――スキル【高速収穫】!」
その瞬間、ピクッと俺の身体がシステムのアシストに引っ張られた。
自分の意思とは無関係に腕がブレるほどの速度で動き出し、シャカシャカシャカッ! と瞬きする間に真っ赤なトマトをもぎ取っていく。
「すげー、ゲームの頃とまったく同じ動きだ。改めてやってるのを見ると、シャカシャカ動いてて面白いな」
「こうなると、リアルなのかゲームなのか区別がつかんな」
笑いながら感心している二人を振り返り、俺は少し赤くなって言い返した。
「二人とも笑うなよ! ちゃんと動くことが分かったんだから上出来だろ。ついでにニワトリ小屋から卵もとってくる」
「それじゃ、オムレツとサラダでも作るか。まずは野菜を洗わないとな」
俺が収穫した野菜を受け取りながら、シュウが腕まくりをする。すると、横からテツが出てきた。
「なら、俺は水魔法を使ってみる。それで洗えるか試してくれ」
テツはアイテムボックスから大きな木のタライを取り出して地面に置いた。
「いくぞ。――【ウォーター】」
テツが魔法を唱えると、指先からジャバジャバと勢いよく水が噴き出し、タライに注がれていく。
「おぉ、すげーな。けど、ちょっと水流が強すぎる。もう少し弱くできるか?」
「……む、難しいこと言うな。オンかオフしかできない。タライに貯めとくから、それで洗ってくれ」
「なるほど、魔法の細かなコントロールは要検証だな」
シュウは苦笑しながら野菜を洗い、クランハウスのキッチンへと移動する。
「さて、それじゃあ俺の料理スキルはどうなってるのか、検証してみますかね」
キッチンには、新鮮な野菜と卵とが置かれている。シュウがまな板の前に立ち、スキルを起動した。
「――料理スキル【レシピ・オムレツ】」
ぽわんっ、と卵が淡い光に包まれたかと思うと、一瞬にして姿を消し、代わりにふっくらと黄金色に焼き上がった完璧なオムレツが皿の上に現れた。
殻を割ることも、フライパンで焼くプロセスもすっ飛ばした、ゲームシステムの完全再現だ。同じ要領であっという間にサラダも完成し、アイテムボックスに保存してあったパンを取り出せば、立派な食事の完成である。
俺たちは円卓に料理を並べ、席についた。
「さて、味の方はどうかな……?」
俺はフォークでオムレツを切り分け、恐る恐る口に運ぶ。
ふわふわの卵と絶妙な塩気が口いっぱいに広がった。
「美味い! ゲームだと料理にバフ効果があったけど……うん、バフもちゃんとついてるな」
視界の隅に小さくステータス上昇のアイコンが点灯しているのが見え、身体の底から活力が湧いてくる感覚があった。
「スキル様々だな。これなら後片付けも【クリーン】の魔法で片付きそうだ」
シュウがパンをかじりながら、スキルの効果に関心しきりだ。テツも黙々とサラダを口に運びながら、深く頷いた。
「スキルシステムが完全に生きているとなると……俺は材料さえあれば、一人で家を建てられるってことか?」
「そういうことだな。人手不足で頭を悩ませなくてよくなったな」
俺たちが和やかに食事を進めていると、ふとテツが真顔になって口を開いた。
「なぁ、モンスターってどうなってると思う?」
その言葉に、俺とシュウの手がピタリと止まった。
リアルな身体、リアルな痛覚。もしこの状態で、ゲーム時代と同じように凶暴な魔物と対峙することになったら。
「おい、食事中に嫌なこと言うなよ……な、なんとか、なるだろう」
シュウの引きつった声に、俺たちはただ無言で頷き、少しだけ冷や汗をかきながら残りのオムレツを胃に流し込んだ。
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