002 異世界転移
「ここに来る途中、『ログアウトボタンが無い』って騒いでる奴がいてな。まさかと思って自分でも調べてみたら……」
「「ステータスオープン!」」
テツの言葉に、俺とシュウはウィンドウを呼び出し、システムタブの末尾を確認した。そこにあるはずの『ログアウト』の項目が、綺麗さっぱり消滅している。
「……本当だ。ログアウトボタンが無い!」
「おいおい、勘弁してくれよ。古のラノベじゃあるまいし。まさか『デスゲーム』か?」
シュウが丸いお腹をさすりながら、引きつった笑いを浮かべる。しかし、腕を組んだテツは首を横に振った。
「いや……どうやら『異世界転移』の方らしい」
そう言うと、テツは空中のウィンドウを操作し、ポンッと羊皮紙の手紙を実体化させた。
「何だコレ?」
「アイテムボックスに、いつの間にか入ってた」
「……お、本当だ。俺のにも入ってるな」
俺も急いで自身のアイテムボックスを開き、ソート機能を『入手順』に切り替える。すると、一番上に【手紙】という身に覚えのないアイテムが存在していた。
アイテムボックスから取り出し、蝋の封印を切って羊皮紙を広げる。そこには、達筆な文字でこう記されていた。
『我は遥かなる次元の高みより観測する者なり。
汝らが愛でたる幻想の箱庭、その理をそっくりそのまま模した真なる世界を此処に創造せり。此度は汝らを、新たなる天地への客人として招き入れた次第である。
さあ、己が真なる肉体と魂をもって、この果てなき世界を存分に謳歌するがよい』
羊皮紙から顔を上げ、俺はポツリと呟いた。
「……マジか」
「……どうする?」
おじさん三人が困ったように顔を見合わせる。
「モンスターの見た目設定、痛覚設定、外部との通信手段も無くなってた……。広場にいた連中は、そりゃあもう大パニックになってたぞ。運営にクレーム入れるだの、なんだのと阿鼻叫喚の騒ぎだ」
テツの報告に、俺たちは顔を見合わせた。
運営も何も、相手は高次元の存在(自称)だ。人間の常識が通じる相手ではない。
独り身の気楽なおっさん三人とはいえ、現実のアレヤコレヤは一体どうなるのだろうか。
「「「………………」」」
重苦しい沈黙が、ギルドハウスに降り下りた。
三人で円卓を囲み、腕を組み、ひたすら無言で現状を咀嚼しようとする。
やがて――。
きゅるるるるるー
俺の腹の虫が、間抜けな音を立てて鳴った。
「腹が減っては戦は出来ぬっていうし飯にするか。ちょっと畑で野菜収穫してくるから、シュウ、何か美味いもん作ってくれよ」
俺は膝を叩いて立ち上がった。
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