049 牛鬼
7月後半のある日。
俺たちは、お祭り実行委員会の事務所も兼ねている産直市場併設のシュウの店で、次の祭りに向けた会議を開いていた。
「7月後半の祭りは、『うわじま牛鬼まつり』をする予定だ」
テツが手元の資料を広げながらそう切り出した。すると、隣に座っていたアザミが即座に目を輝かせる。
「牛鬼ですか!? 忍法で口寄せしましょうか?」
「ん?! いや、本物というか、ゲームの妖怪は……まあ、異世界バージョンとして、パレードの最後尾に参加するくらいならいいかな?」
思わぬ提案に一瞬面食らいつつも、アザミの提案を寛容に受け入れ、パレードに本物のバケモノを混ぜることをあっさりと許可してしまった。
「牛鬼って、確か牛の頭にクモの体を持った妖怪だっけ?」
「どれどれ。要望を出したプレイヤーの資料によると、牛鬼を模した巨大な山車を作って町を練り歩くらしいぞ」
シュウが手元の資料を読み上げながら説明してくれる。
「へえ、長い首で頭をぶんぶんと振り回しながら進むのか。なかなか面白そうだな」
「それと、子供たちが竹の笛を吹きながら、後ろをついて歩くらしい」
テツの説明を聞きながら、俺は制作の手配について尋ねた。
「その大きな山車の制作は、やっぱり今回も建築クランにお願いか?」
「ああ、そっちは既に発注済みだ。それでゲン、お前に一つ頼みがあるんだ」
「俺に?」
テツが少し真剣な顔つきになって俺を見た。
「今回、いつもみたいに城壁の外回りを歩くんじゃなくて、城壁の中を歩けないか聞いてみてくれないか?」
「えっ、俺が!?」
思わず仰け反ってしまった俺に、テツは至極真面目な顔で頷いてみせた。
「お前、男爵になっただろ? 貴族のコネを使えば許可が降りるんじゃないかと思ってさ。せっかくの祭りだし、もっと多くの住民に見てもらいたいだろ」
「……分かったよ。とりあえずヴァルテン伯爵に相談してみるか。アザミ、こういう時ってどういう手順を踏めばいいんだ?」
「まずは手紙ですね! 貴族向けの正式な書簡の書き方、私がみっちりご指南しますよ!」
「頼むから優しく教えてくれよ……」
アザミのスパルタ指導のもと、どうにか伯爵への礼儀正しい打診の手紙を書き上げ、提出。これまでの食料供給の功績が効いたのか、城壁内でのパレード許可があっさりと下りたのだった。
――そして準備は順調に進み、迎えた祭り当日。
神社の前でテツが厳かに神事を執り行い、それが終わると、いよいよ『牛鬼』の出陣だ。
色とりどりの布やシュロの毛で覆われた巨大な胴体に、長い首、そして恐ろしい牛鬼の顔。建築クランが気合を入れて作った山車達は、想像以上の迫力だった。
その後ろには、王都の住民の子供たちがズラリと並んでいる。彼らには事前に手作りの竹笛を配ってある。
「ブーブー!」「ピーッ!」「ブーブー!」
子供たちが楽しそうに竹笛を吹き鳴らし、最後尾にはアザミが口寄せした牛鬼がのっしのっしとついてくる。相変わらずカオスな行列だ。
そして行列は、重厚な王都の門をくぐり、いつもと違って城壁の内側へと足を踏み入れた。
「な、なんだあれは!?」
「牛の頭をした化け物か!?」
突然街中に現れた異形の山車と、けたたましい竹笛の音に、沿道の住民たちは目を丸くして驚いている。
担ぎ手たちが山車を大きく揺らし、長い首を振り回して家々の軒先に頭を突っ込むようなダイナミックな動きを見せると、住民たちから悲鳴と歓声が入り交じった声が上がった。
「さあさあ! 『牛鬼まつり』だぞー!」
「ほら、もっと笛を吹いてー!」
先導する俺たちが声をかけると、子供たちはさらに元気に「ブーブー!」と笛を鳴らしながら笑顔で歩いていく。
初めは遠巻きに見ていた住民たちも、祭りの熱気にあてられたのか、次第に手を叩いてパレードを楽しんでくれるようになった。
大迫力の頭を右へ左へと振る牛鬼と、ブーブーと響く子供たちの賑やかな笛の音。異世界の王都の通りを、パレードがゆっくりと練り歩いていくのだった。
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