046 潮と鯛
お祭り実行委員会の事務所も兼ねている産直市場。
その一角に併設された、シュウが道楽で経営しているカレー屋のテーブルで、俺たちは次の祭りについての会議を開いていた。
「さて、七夕も終わり、要望があった次にやる祭りなんだが。どちらも海にちなんだ祭りなんだ……」
テツが少し困ったように企画書を広げた。
「海か……ここは内陸だからな。小さな川くらいしかないぞ?」
「日本の祭りを完全再現しなくてもいいんじゃないか? どんな祭りなんだ?」
シュウの問いに、テツが答える。
「二つ候補があってな。三重県志摩市の海水をかけ合う『潮かけ祭』と、愛知県南知多町の巨大な鯛の神輿を海に入れる『豊浜鯛まつり』だ」
「海か……」
俺は腕を組んで唸った。
「だいぶ趣旨は変わるが、単なる水のかけ合い祭りでいいんじゃないか?」
「それだと、タイの水かけ祭りみたいだな」
「俺も最初は、王都の外のフィールドに巨大な池を作って再現しようかとも思ったんだ。だが、雑魚とはいえモンスターも出るし、王都の住民も見学することを考えると危険だ。要望を出したプレイヤーと相談してみよう」
話し合いの結果、二つの祭りを掛け合わせた異世界独自のイベントが開催されることになった。
その名も『潮かけ鯛祭』。
そして迎えた祭り当日。
日本人街の神社には、見上げるほど巨大な赤い鯛の神輿が出現していた。建築クランが突貫工事で組み上げたもので、なんとエラや尻ビレが滑らかに動く仕掛け付きだ。
今回はこの巨大な鯛を担ぎ、城壁の外に沿ってぐるりと一周練り歩く。参加者は「鯛を守る護衛チーム」と「鯛に水をかけるチーム」に分かれ、水難除けの祭りとして行うことになった。
神主役であるテツの厳かな神事が終わると、男たちは一斉に下帯姿になり、いよいよ祭りの火蓋が切られた。
俺、シュウ、テツの三人は、護衛チームとして鯛の神輿の担ぎ棒に肩を入れる。
その瞬間、沿道に陣取った水かけチームから、容赦ない水の集中砲火が浴びせられた。
「ぶっ! おい、水魔法は初級の『ウォーター』までだぞ!」
「お前らちょっと手加減しろ! 息ができない!」
「前が見えねぇ! 水中メガネだ!」
バシャバシャと四方八方から飛び交う水魔法の飛沫に、俺たちは悲鳴を上げながらも必死に足を踏み出す。
冷たい水が火照った体にぶつかり、真夏の太陽の下でキラキラと乱反射した。
激しい水のかけ合いの中、頭上の巨大な鯛はエラと尻ビレをゆったりと動かしながら、まるで本当に大海原を泳いでいるかのように水しぶきの中を進んでいく。
本来の祭りとはだいぶ違う形になってしまったが、全身ずぶ濡れになって笑い合うプレイヤーや王都の住民たちを見ていると、これはこれでよかったのかなと思えてくる。
俺は顔を流れる水を拭いながら、どうか異世界バージョンとして許してほしいと、日本の神様に向かってこっそり心の中で祈るのだった。
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7:00・12:00・18:00に投稿予定。




