043 指輪
見渡す限りに広がる大規模農園。
その畝の間を、俺がテイムする土の精霊・ノームたちがテキパキと駆け回り、農作業をこなしている。
俺はシステムウィンドウを開き、彼らのタスク配分を細かく調整していった。
「とりあえず、これでよしと」
「おおー! ノームくんたちが、大活躍ですね!」
隣で付き合っていたアザミが、感心したように声を上げた。
「収穫したら、そのままアザミに渡せばいいのか?」
「はい! それで私が『フレンド間転送システム』を利用して、東西南北のそれぞれの都市にドーンと輸出しますから!」
自信満々に胸を張るアザミを見て、俺はどうしても気になっていたことを尋ねた。
「……なあ、伯爵が言ってた『志願した冒険者6人』って、この前捕まえた賞金首の連中だよな?」
「ふふふ。伯爵様の庇護のもと、強制労働……もとい、人の為に役に立てるなんていいことじゃないですか」
「まあ、そうなんだけどね……」
容赦のない笑顔のアザミに、俺は引きつった笑いを返すしかなかった。あの後方支援組のリーダーの男も、どこかの都市でアイテム転送のインフラとして働かされているのだろう。
俺はふと手元に視線を落とし、指にはめられた重厚な指輪を眺めた。
『これを渡しておこう。私の庇護下にいる証になる指輪だ。面倒な貴族や商人相手に見せれば黙らせることが出来る。詳しいことは、アザミに聞くとよかろう。落とすなよ』
面会の終わりに、ヴァルテン伯爵から直々に渡されたものだ。
「はぁ……貴族とかそういう権力闘争とは関わらないで、のんびりスローライフがしたいだけなんだけどなー」
俺がぼやくと、アザミは不思議そうな顔で首を傾げた。
「たった1人で国の食料危機を救えるような人を、貴族がほかっておく訳ないじゃないですか」
「身も蓋もない正論だな……」
ため息をつきつつ、俺は別の懸念を口にした。
「なあ、他の国はどうなってるか分かるか? 食料が無くなって難民が押し寄せたり、最悪、食料を求めて戦争を仕掛けてきたり……なんてことはないよな?」
「さあ? 伯爵様からは何も聞いていません。でも、五万人に1人ゲン殿みたいなプレイヤーがいればいいわけですから、他の国もなんとかなるんじゃないですか? だめだったら、みんなで仲良く畑を耕せばいいんですよ」
「それができれば、王都の周りの都市も食糧危機になってないんだよな……」
アザミの思考はどこまでも楽観的(というか脳筋?)だった。
ふと、この場にいないもう一人の仲間の顔が思い浮かぶ。
「リンは今頃、伯爵のところで大量の市場価格の資料と格闘中か。あいつが一番プレッシャーかかってるんじゃないのか?」
「大丈夫ですよ! 伯爵様は優しいですから!」
アザミはあっけらかんと言い放つが、果たしてそうだろうか。
ゲーム時代の『アルカディア・ワールド・オンライン』のメインストーリーは、貴族の暗躍や国家間のきな臭い陰謀が渦巻く、かなり重苦しい雰囲気のものだったはずだ。それが現実になった今、ただの優しい伯爵様で済むわけがないと思う。
俺は遠くの異世界の空を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……だといいな」
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