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042 スーツ

グランパレス王国。全人口は約十万人。


国の中央に王都が栄、そこから東西南北にそれぞれ一万人規模の地方都市が点在している、気候穏やかで豊かな国だ。


王家を頂点として、公爵家が一つ、侯爵家が二つ、伯爵家が五つ、子爵家が十二、男爵家が三十あり、その下には騎士や士族が沢山連なるという、絵に描いたようなファンタジー国家。


俺は今、そんな国の伯爵家の中でも、とりわけ食料・財政・商業政策に強いと言われている実力者、ヴァルテン伯爵の立派なお屋敷にお邪魔していた。


「なあ、やっぱりこの格好変じゃないか?」

俺は落ち着かない気分で首元を触りながら尋ねた。


「ばっちりですよ」

アザミが満面の笑みで太鼓判を押す。


今日のために、俺はアザミの紹介で知り合った服専門の生産職ミコさんに衣装をオーダーメイドしていた。しかし、仕上がってきたのはなぜかきっちりとしたスーツにネクタイだったのだ。


「なんでファンタジーでスーツ!?」


完成品を見たとき、俺が思わず叫ぶと、アザミとミコさんは「「スーツ!スーツ!」」となぜか大はしゃぎだった。たしかに生地はすべすべで触り心地は最高だし、デザインも俺の体にぴったりフィットしていてかなりかっこいい。だが、この世界観にはどう考えてもミスマッチだ。


「浮いてない?」

重厚なアンティーク調の家具が並ぶ室内を見回して不安を口にすると、隣から不満げな声が飛んできた。


「スーツならまだ、いいじゃない。私なんかチャイナドレスよ!」

見れば、きわどいスリットの入った真っ赤なチャイナドレスを着せられたリンが、腕を組んでジト目を向けていた。


「ミコちゃん、コスプレーヤーでして。貴族に会う服って言ったら気合い入っちゃって」

アザミが笑いながら裏事情を明かす。


「ていうか、なんでリンもいるんだ?」

俺が突っ込むと、リンはさらに不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「こっちが聞きたいわよ」


そんなやり取りをしていると重厚な扉が開き、この屋敷の主である伯爵が入ってきた。


俺たち三人は慌てて立ち上がる。

歳は五十くらいだろうか。凛々しい顔立ちにロマンスグレーの髪、立派な口髭に、人を射抜くような鋭い目つきが、ただ者ではない威厳を放っている。


伯爵が鷹揚に片手を上げると、アザミが静かに椅子に座り、それに倣って俺とリンも再び腰を下ろした。


「私が伯爵のエドガル・フォン・ヴァルテンだ。まずはゲン殿、リン殿、王都の食料危機の解決まことに感謝する」

「み、身に余る光栄。と、当然のことをしたまでです」


俺はガチガチに緊張しながら返事をした。隣をチラリと見ると、リンはすまし顔で黙りこくっている。どうやら、受け答えはすべて俺任せにするらしい。まあ、いいけど。


「今日、二人を呼び出したのは他でもない。今、王国は未曾有の食糧危機に面している」


伯爵は、メイドが淹れた紅茶を一口飲み、喉を潤してからゆっくりと話し始めた。


「王都の東西南北に位置する都市でも、冒険者が約一万人ずつ現れた。王都と同様、最初は混乱するかもしれぬがやがて落ち着くだろうと……それがいつまでたっても解決せぬのだ。聞くが、ゲン殿のように農業を出来る冒険者は、数が少ないのか?」


伯爵の問いに、俺は少し考えてから答えた。


「はい。農業を出来るプレーヤ……冒険者は、いると思います。ただ、普通の冒険者は品質重視の栽培をしています。私みたいに大量生産出来る冒険者は少ないと思います」

「そうか……ゲン殿が王都に、いや、この国にいてくれて助かったよ」


伯爵の口から、ふかいふかいため息が漏れた。


「話を戻すが、それぞれの都市の農業が出来る冒険者たちに要請して農業をさせてはいるが、量が圧倒的に足りない。備蓄していた小麦の底が見え始めて、呑気な貴族たちもようやく危機感が出てきたようだ」


そこで伯爵は言葉を区切り、俺たち二人を真っ直ぐに見据えた。


「そこでゲン殿、再び穀物類の生産を増やしてもらいたい。リン殿には、それぞれの都市の市場価格を速やかにもとに戻し、その後、必要以上に価格が下がらないようにしてほしい」


伯爵がじっと俺の目を見つめてくる。すさまじい眼力だ。圧に耐えられなくなった俺は、目を閉じて頷いた。


「分かりました。急ぎ増産します」

「ありがとう」


俺の即答に、伯爵は満足そうに口角を上げた。

その時、横からおずおずとした声が上がった。


「あ、あの、いいですか?」


今まで黙っていたリンだ。


「うむ、何だね」

「増産したあと、作物の輸送はどうするのですか?」


リンの至極もっともな疑問に対し、伯爵は微かに笑みを深めた。


「それなら問題ない。冒険者同士で出来る『フレンド間転送システム』というのは本当に便利だな。最近、我々に協力してくれる冒険者が6人志願してくれてな」




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

もしよろしければ、『ブックマーク』と『星評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。

これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!


7:00・12:00・18:00に投稿予定。

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