040 夏越の祓
6月末日。
今日、俺たちは神社の境内で『夏越の祓』を行っていた。
神主を務めるのは、すっかり神主役が板についたテツだ。
「夏越の祓」とは、1年の前半にたまった穢れ(けがれ)を落とし、後半も無事に過ごせるように祈る大切な神事である。厳かな空気の中、祭壇の前に立つテツが朗々と大祓詞を奏上する。その低く響く声を聞いていると、本当に心が洗われるような気がしてくるから不思議なものだ。
祝詞の奏上が終わると、参加者たちは自分の身代わりとなる紙製の『人形』に息を吹きかけ、箱に納めていく。俺もシュウやリン、そしてアザミと一緒に、この半年の厄を落とすように人形を納めた。
続いてはメインイベントである『茅の輪』くぐりだ。
境内に青々とした茅で編まれた大きな輪が設置されており、これを左回り、右回り、左回りと8の字を描くように3回くぐり抜ける。そしてそのまま神前へと進み、今年後半の無病息災をしっかりと祈願した。
神事が無事に全て終わると、お待ちかねのおやつタイムだ。
「おーい、水無月を配るぞー」
シュウが声をかけると、参加者たちがわらわらと集まってくる。
京都出身のプレイヤーから「うちの地元じゃ、夏越の祓の日に『水無月』っていう和菓子を食べる風習があるんだ」と聞いたシュウが、わざわざ大量に用意してくれたのだ。
配られたのは、暑気払いの氷を模したという白い三角のういろうの上に、厄除けの意味を持つ甘く似た小豆がたっぷりと敷き詰められた和菓子だった。
一口食べると、もっちりとしたういろうの食感と、小豆の素朴で優しい甘さが口いっぱいに広がる。蒸し暑くなってきたこの時期にぴったりの、どこかホッとする味だった。
「美味しいでござる! ゲン殿、一口いかがですか? あーん」
「いやいや、自分の分があるから大丈夫だ。ほら、口の周りに小豆が付いてるぞ」
「むふふ、取ってください」
「自分で拭けよ」
隣でグイグイと迫ってくるアザミを適当にあしらいながら、俺は空っぽになった皿を置いた。
ふと見渡せば、リンもテツもシュウも、他の参加者たちもみんな笑顔で和菓子を頬張りながら談笑している。
その和やかな光景を見つめながら、俺は静かに息を吐いた。
この見知らぬ異世界に転移してきてから、約二ヶ月弱。
農業をしたり、祭りを開いたり、カードゲームで爆死する奴がいたり、くノ一に首を絞められたりと、スローライフを目指しているのに騒ぎばかり起きている気がする。
それでも——気がつけば、この世界の生活にもすっかり慣れてしまっていた。
青く高い異世界の空を見上げながら、今年後半もこの調子で楽しくやっていけたらいいなと、俺は小さく微笑んだ。
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7:00・12:00・18:00に投稿予定。




