039 朝帰り
翌朝。
バキバキになった首をさすりながら一階のフロアへ降りると、カウンターの奥からヒゲのオヤジさんがニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて声をかけてきた。
「おう、昨夜はお楽しみだったな」
まさか、あの有名なRPGの宿屋のセリフを聞くことになるとは思わなかった。
「……首をさすってる俺を見て、これがお楽しみだったように見えるか?」
「えへへ、ゲン殿、責任とってくださいね」
俺の背後からひょっこりと顔を出したアザミが、満面の笑みで言い放つ。
店内をぐるりと見回したが、さすがにリンの姿はない。昨夜のうちにショックから立ち直って帰ったか。
「とりあえずオヤジさん、朝飯食えるか?」
「私もください!」
アザミは悪びれる様子もなく、ごく自然に俺の隣の椅子に腰を下ろした。
朝食を済ませた後、俺たちはクランハウスへと向かった。
道中、アザミはずっと俺の腕にべったりと抱きついたままで、すれ違う住民やプレイヤーたちからの生温かい視線が痛かった。
クランハウスの扉を開けると、リビングにいたシュウとテツが、俺の腕にぶら下がる見知らぬくノ一を見て目を丸くした。
「おいおい……賞金首討伐の手伝いして、祝賀会してハメを外して朝帰りかと思ったら……いつの間にそんな可愛い彼女ができたんだ!?」
「これは、お祝いだな。赤飯を用意して、二人の家を建てないとな。農場の空き地でいいか?」
開口一番、シュウとテツが盛大にからかってくる。
「おいおい、冗談はよしてくれよ」
俺が呆れ顔で手を振ると、腕に抱きついていたアザミが突然、悲痛な顔を作って嘘泣きを始めた。
「え!? ゲン殿、昨日のあの熱い夜は、冗談だったのですか? そ、そんな……私は、本気だったのに……うううっ」
「ゲン、お前……ちゃんと責任取れよ」
「今まで散々遊んだんだろ、年貢の納め時だな」
完全にアザミの迫真の演技にのっかった二人が、面白がるように俺をからかってくる。
「勘弁してくれよ! 酔っぱらいに一晩中チョークスリーパー決められて、気を失ってただけなんだぞ!」
俺の身も蓋もない弁明に、リビングに何とも言えない微妙な空気が漂った。
「えっと……シュウ殿、テツ殿、改めまして、くノ一のアザミです。専門は対人戦に諜報。仕事があるときは御一報を」
居心地が悪くなったのか、アザミがコホンと咳払いをして真面目な顔で自己紹介をした。
「あ、ああ……料理人のシュウだ」
「建築家のテツだ。……まあ、俺から対人戦の仕事を頼むことはないかな」
「で、お前、これからどうするつもりだ?」
俺が尋ねると、アザミはモジモジと指を絡ませながら、上目遣いで俺たちを見た。
「で、できたら……ゲン殿達のクランに入れて貰えたらなって……」
その少し不安げな表情を見て、昨日の夜、首を絞められる直前に『一人は寂しい』と弱音を吐いていた彼女の姿が脳裏をよぎった。対人戦を極めすぎて居場所をなくした、ちょっと(かなり)厄介だが寂しがり屋のくノ一。
「まあ、その……ちょっと変わっているけど、根はいい子だからさ。どうかな?」
俺が助け舟を出すように二人に尋ねると、シュウは少し笑って頷いた。
「そうだな。にぎやかになるのはいいんじゃないか」
「分かった。急いで農場に二人の家を作ろう」
「とりあえず空いてる客室でいいだろうが!」
俺がテツの暴走を止めようと声を張るが、二人は聞く耳を持たない。
「いやいや、同じ屋根の下は気まずいから」
「ご祝儀だ! 取っておけ!」
「えへへ、ありがとうございます!」
嬉しそうに便乗するアザミ。
俺は頭を抱えて叫んだ。
「だーかーらーーー!」
俺の嘆きの声が、今日も平和なクランハウスに空しく響き渡るのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
もしよろしければ、『ブックマーク』と『星評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。
これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!
7:00・12:00・18:00に投稿予定。




