037 大ガマ
俺は今、村人風の服に身を包み、木箱を積んだ荷馬車の御者台で手綱を握っていた。
その木箱の一つには、くノ一のアザミが潜んでいる。
「なあ、こんな変装で本当にだませるのか?」
俺が背後の荷台に向かって小声で尋ねると、木箱の中からくぐもった声が返ってきた。
「プレイヤーならアイテムボックスを使います。わざわざ、荷馬車で物理的に荷物を運ぶとは思わないでしょう。村人にしか見えませんよ」
「それもそうか……もし盗賊が出た時は頼むぜ」
「もちろんでございます」
「はあ、どうしてこんなことになったんだか」
俺が深いため息をつくと、箱の中のアザミが弾んだ声を出した。
「ゲン殿、この作戦が成功したら、協力してくれたお礼に私にできることなら何でもしますからね!」
「ぐっ! 女の子が簡単にそういうこと言うんじゃないよ。俺は失敗した時のことを心配してるんだ」
「その時は、私が身も心も誠心誠意慰めてあげますから……ふふっ」
「……どうあっても、そっち方面に持っていきたいの?」
「くノ一ですから!」
そういう、くノ一って創作物の中だけだと思うんだけどなー。
そんなツッコミを心の中で呟きながら、俺はのどかな一本道をのんびりと進んでいった。
やがて道は鬱蒼とした森の中へと差し掛かる。
しばらく進むと、前方で大きな倒木が道を塞いでいた。自然に倒れたというよりは、明らかに人為的に切り倒されたものだ。俺は馬車を止めた。
直後、道の両脇の茂みから、ぞろぞろと武装した男たちが姿を現した。
「盗賊! 6人も!」
「大人しく馬車と荷物を置いてきな。そうすれば命だけは助けてやる!」
いかにもな盗賊のリーダーが、絵に描いたようなありきたりなセリフを吐く。周りを取り囲む手下たちも、下品ないやらしい笑い声を上げた。
その時だった。
荷台の木箱の蓋が勢いよく弾け飛び、中からアザミが飛び出した。
「出たな悪党! 忍法『影縫い』!」
空中に舞い上がったアザミが、華麗にクナイを放つ。それは盗賊たちの身体ではなく、足元に伸びる影に突き刺さった。
瞬間、盗賊たちはピタリと動きを止める。
「な、何をしやがった!」
「か、体が動かねぇ!」
「おや!? 影縫いの対処も出来ないとは。どうやら対人戦は素人のようでしたね」
アザミは荷台に着地すると、目元を細めて嘲笑う。そして素早く印を結んだ。
「忍法『大ガマ』!」
ボフゥッ!という白煙とともに、見上げるほどの巨大なガマガエルが出現した。
「ガマちゃん、ご飯ですよ」
「ゲコォォッ!」
アザミの号令とともに、巨大ガマが太い舌を伸ばし、動けない盗賊たちを次々と丸呑みにし始めた。
「お、俺たちを殺してもまた復活するんだぞ! 顔は覚えたからな、復讐してやる!」
手下を食われ、焦ったリーダーがありきたりな捨て台詞を吐く。
その顔をよく見て、俺はふと気づいた。
「お前、攻略組に寄生してた、後方支援組の男じゃん」
「盗賊に成り下がるとは見下げ果てた根性ですね」
アザミが冷ややかな視線を向ける。
「ちなみに、賞金首になったペナルティを教えてあげましょう。ゲーム時代は経験値、アイテム、所持金、全部没収です。もう一回レベル1から遊べるドン! 今はどうなっているか……また会えたら教えてくださいね」
「コノヤロー!」
激昂するリーダーだったが、その背後にはすでに巨大なガマガエルが迫っていた。ヌメヌメとした舌がリーダーに巻き付く。
「ひっ! やめろ! 気持ち悪い! あああーっ!」
バクンッ。
情けない悲鳴とともに、リーダーもまた大ガマの胃袋へと消えていった。
アザミはふう、と息を吐くと、ビシッとポーズを決めた。
「これにて、一件落着でござる!」
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