036 賞金首
隠れ家ギルドの扉を開けると、そこには机に突っ伏してピクリとも動かないリンの姿があった。
周囲には開封済みの小袋が散乱している。どうやら、あり金すべて『アルカディア・カード・サーガ』のパックにつぎ込み、見事に爆死したらしい。背中から漂う絶望のオーラがあまりにも凄まじかったため、俺は触らぬ神に祟りなしとばかりにそっとしておくことにした。
そのままカウンターへ向かい、ヒゲのオヤジさんに声をかける。
「オヤジさん、うちで出荷した鶏の評判はどうだ?」
「おう、上々だぜ。肉付きもよくて客からも好評だ」
「それは良かったよ」
俺がホッと胸をなでおろしていると、オヤジさんはふと真剣な顔つきになり、声を潜めた。
「ところで相談なんだが……実はな、西の都市に向かう道に、最近盗賊が出るようになってな。それがどうも、冒険者らしいんだ」
オヤジさんが顎で示した先には、『賞金首』の手配書がベタベタ貼られた依頼掲示板があった。
「……手伝いたいのは山々だけどさ、対人戦はちょっと……」
俺がバツの悪そうな顔で渋ると、オヤジさんはハハッと笑って肩をすくめた。
「まあ、おめーさん達はそこまで強そうには見えねえからな」
「いや、これでもそれなりに強いんだぞ? ただな、対人戦とモンスター相手の戦闘は完全に別モノなんだよ」
「分かった分かった。もし対人戦に強い奴が知り合いにいたら、賞金首のことを知らせといてくれや」
俺が反論し、オヤジさんがなだめた、その時だった。
「ふっふっふ……お困りのようですね」
突如、店内に芝居がかった謎の声が響き渡った。
「誰だ!? どこにいる?」
「ここですよ」
声のした頭上を見上げると、天井の太い梁から逆さにぶら下がっている影があった。黒と紫を基調とした忍び装束に、重力に逆らう見事なプロポーション。
「あんた、くも合戦のときのくノ一! どうしてここに!?」
「アザミとお呼びください。町中でゲン殿をたまたま見かけて、暇だったのでストーキングしたまで。対人戦なら、この私にお任せを!」
アザミと名乗った彼女は、天井からぶら下がったまま、さらっととんでもないことを口走ったが、そのまま、まくし立てる。
「実はアップデートから、私の対人戦ビルドが『怖い』とクラン内で噂されまして……。すっかり居づらくなり、現在はクランから脱退してソロ活動中なのです。いっそビルドの変更も真剣に考えていた今日この頃ですが……どうやら、やっと私の力が世のため人のために役立ちそうですね!」
どうやら、対人戦を極めすぎた結果、身内から引かれてぼっちになってしまったらしい。同情すべきか引くべきか迷うところだ。
「う、うん。頼もしいよ。とりあえず、話しづらいから天井から降りてもらってもいいかな?」
俺は引きつった愛想笑いを浮かべながら、心の中で密かに突っ込んでいた。
(真っ昼間からそんな目立つ忍び装束着て堂々とぶら下がってるけど、この人、本当に忍ぶ気あるのかな……?)
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