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035 くも合戦

6月の第3日曜日。


俺たちはこの世界で『加治木(かじき)くも合戦』を開催することになった。


本来なら、『コガネグモ』を使って戦わせるのだが、ここは異世界。コガネクモがいるわけもなく、今回は現地の似たようなクモを使う『小型クモ部門』と、プレイヤーがテイムした『クモ型モンスター部門』の二部門が設立された。


今回も神社の前の広場でやるのかと思っていたら、「クモが苦手な人もいるから、人目のつかない所でやろう」という至極真っ当な意見が出た為、結果として、王都の郊外の、さらに郊外にある俺の農場の空き地で開催されることになったのだ。




午前中は、小型のクモの大会だ。


『加治木くも合戦』とは、薩摩の島津義弘が、文禄・慶長の役の際に兵士たちの士気を高めるために始めたと言われる歴史ある伝統行事である。ルールは至ってシンプルだ。細長い棒の上でクモを戦わせ、相手の尻に糸を掛ける、相手の尻に噛みつく、相手を棒から落とす。棒からぶら下がった相手の糸を切れば勝利となる。


小さなクモたちが棒の上でせめぎ合う。白熱しつつもどこかのんびりとした空気が漂う中、無事に優勝者が決まり、和やかな雰囲気のまま午前の部は終了した。




昼休憩――


放牧地にはいくつかの屋台が並んでいた。俺はシュウが腕によりをかけて作った特製スパイスカレーをガッツリと平らげ、額に汗を滲ませながら午後からの戦いに向けて気合を入れ直した。




休憩が終わると、テツの土魔法のゴーレムが太い丸太を持ち上げ、モンスター用の頑丈な特設ステージ(巨大な一本橋)をセットする。


「いくぞ、レッドスカル!」


俺の呼びかけに応えたのは、体長一メートルほどの立派な蜘蛛型モンスターだ。腹の部分に赤いドクロマークの模様があることから名付けた、俺の相棒である。普段の農作業で、紐やロープが必要なときに糸を吐き出して手伝ってくれる、働き者で可愛いヤツなのだ。


そして俺の対戦相手は、布で口元を隠したナイスバディーなくノ一だったのだ。彼女の傍らには、いかにも素早そうな黒曜石のようなツヤを持つ黒い蜘蛛が控えている。


「ふっ、王都の食料危機を救った、救世主ゲン殿と対戦できるとは、光栄」

くノ一が芝居がかった、しかしどこか楽しげな声でポーズを決めた。


「俺、救世主とか言われてるの!?」

「いえ、私が勝手に言ってるだけです」




「はっけよい、のこった!」の合図とともに、二匹の巨大蜘蛛が丸太の上を駆け抜ける。


レッドスカルが牽制の糸を吐き出すが、くノ一の黒蜘蛛は目にも留まらぬ速さでそれを躱し、丸太の裏側へと回り込んだ。


「レッドスカル! 噛みつけ!」


俺の指示に合わせてレッドスカルが飛びかかる。だが、彼女の蜘蛛は動きが一段上だった。死角から放たれた粘着性の高い糸に足を取られ、レッドスカルがもたついた隙に、あっという間に背後を取られてしまったのだ。


そのまま見事な手際で真っ白な糸でぐるぐる巻きにされ、勝負あり。レッドスカルは無念の敗北を喫した。


「あーっ、惜しかったな……!」


丸太から降ろされたレッドスカルの糸を解きながら、俺は頭を優しく撫でた。シューシューと少し悔しそうに鳴く相棒を、「よく頑張った、いつも助かってるからな」とたっぷりと労ってやるのだった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

もしよろしければ、『ブックマーク』と『星評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。

これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!


7:00・12:00・18:00に投稿予定。

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