033 アルカディア・カード・サーガ
『アルカディア・カード・サーガ』
それはAWOに実装されているミニゲームの一つだ。
ギルドや酒場の片隅には必ずと言っていいほどカード自販機が設置されており、誰でも気軽に遊ぶことができる。当初はただのオマケ要素だったはずが、その奥深い戦略性からいつの間にかメインストーリーを凌ぐほどの爆発的な人気を獲得してしまった。
プレイヤーたちの間では「もはやカードゲームがメイン」とまで言われている。
「――というわけで、試しに1000パック買ってきた」
俺はクランハウスのリビングにある大きな机の上に、パックの山を作った。隠れ家ギルドのカード自販機から、買ってきたアルカディア・カード・サーガの新段パックだ。
机を囲むように、シュウとテツが座っている。そして、俺の隣には「私もパック開けるの手伝うから!」と付いてきたリンの姿があった。
「しかし、その男はパックの中に帰還チケットが入っているって、何で知っていたんだ?」
山積みになったパックを見つめながら、シュウが腕を組んで首を傾げる。
「うーん。俺みたいに、誰かがパックからチケットを出して帰還する瞬間を偶然見たとかじゃないか?」
「なるほどな。しかし、ダンジョン攻略以外の帰還方法が、まさかミニゲームのパックの中に仕込まれているとは……」
テツがパックを一つ手に取り、しげしげと裏表を観察している。
「これ、封入率はどのくらいなんだろうな」
「そんなの関係ないわよ!」
テツの冷静な疑問を、リンが勢いよく遮った。
「出るまで買えばいいのよ! さあ、開けるわよ!」
リンの号令とともに、俺たちは黙々とパックを開封する作業に取り掛かった。
袋を破り、中のカードを確認し、また次の袋を破る。期待と緊張が入り交じる中、机の上には色とりどりのモンスターや魔法が描かれたカードの山が築かれていった。
「……出なかったな」
最後のパックの空袋を机に置き、俺は小さく息を吐いた。
机の上にはカードの山ができたが、まばゆい光沢を放つ『日本に帰還出来るチケット』は、ただの1枚も出てこなかった。
「まあ、そんな簡単には出ないよな。当たり前か」
「……」
リンは無言でワナワナと震えた後、ガタッと勢いよく椅子から立ち上がった。
「あり金はたいて買ってくるわ!」
「やめとけ、破産するぞ。おそらく年末ジャンボ並の確率だぞ」
今にもクランハウスを飛び出しそうなリンの首根っこを、シュウがすかさず掴んで引き留める。
「シュウの言う通りだ。その帰還した男は、よっぽど運が良かったんだろうな」
テツの冷静な言葉がとどめを刺したのか、リンは「あああー……私の希望がー……蜘蛛の糸がー……」と呻きながら、その場にぐにゃりと崩れ落ちてしまった。
どんよりとした空気が漂う中、俺は気を取り直して机の上のカードをめくった。
「まあ、チケットは出なかったけど、せっかくだし遊ぶか」
「カードゲームか。そういや、二ヶ月おきに新パックが出てたんだっけ?」
シュウもカードを一枚手に取って眺める。
「これが最後のパックになるのか、それとも今後も新パックが出るのか……興味深いな」
テツもカードのテキストを読み込みながら呟いた。
そこからは完全に遊びの時間だった。それぞれカードの能力をチェックし、あーでもないこーでもないと頭を悩ませながらデッキを組み始める。
そして納得のいくデッキが完成した。
「よし! できたぞ!」
「それじゃ、ちょっともんでやるか」
シュウが不敵な笑みを浮かべて、向かいの席に座り対戦を開始する。
白熱する俺たちの傍らで、テツが床に転がったままのリンに声をかけた。
「リンも遊ぶか?」
「はぁ……ルール難しいの?」
気だるそうに顔を上げたリンに、テツが優しく教えてやる。
「システムがアシストしてくれるから簡単だぞ」
そんな二人のやり取りをBGMに、俺は山札から勢いよくカードをドローした。
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7:00・12:00・18:00に投稿予定。




