032 帰還チケット
チャグチャグ馬コの翌日。
俺は王都の裏路地にある隠れ家ギルドへと足を運んだ。
目的は、大規模農園で飼育していたニワトリがようやく成長し、出荷できる目処がたったためだ。オヤジさんに肉不足の解消を頼まれていたからな。
カラン、と古びたドアを開けて店内に入ると、カウンターの奥でジョッキを磨いているヒゲのオヤジさんと目が合った。
「おう、オヤジさん。昨日の祭は見てくれたかい?」
カウンターに腰を下ろしながら親しげに声をかけると、オヤジさんはニヤリと豪快に笑った。
「おう、馬子にも衣装とは、よく言ったもんだな」
行列の先頭だったから気合の入った衣装を着ていたからな……
「おうおう! せっかく鶏が出荷出来る目処がたったんだけどなー」
「ハハハ、すまんすまん。街の若いねーちゃんがあの美男子は、誰って騒いでたぞ」
「みえみえのお世辞はいいよ」
俺が苦笑しながら手を振っていると、店の奥からエプロン姿のリンがやってきた。
「あれ、ゲンさんどうしたの?」
「鶏の出荷の相談にな……」
俺がリンにそう説明しかけた、その時だった。
店の片隅のテーブル席から、唐突に歓喜に沸いた声があがった。
「やったぞ。これで妻と子供に会える!」
声のした方へ視線を向けると、一人の男がガタッと立ち上がり、震える手で1枚の紙切れを頭上に掲げていた。
遠目からでも、その紙が放つ独特の光沢と装飾には見覚えがあった。先日、北門での騒動の際、ダンジョンをクリアした攻略組のクランマスターが持っていた『日本に帰還出来るチケット』――あれに酷似している。
男は涙を流しながら、そのチケットを慎重に引き裂いた。
瞬間、男の体がまばゆい光に包み込まれる。光の粒子が天に向かって立ち昇り、やがて男の体は完全に消滅してしまった。
静まり返る店内。
あまりの出来事に、俺、オヤジさん、リンの三人は目を丸くして呆然と立ち尽くした。
「な、なんなの今の、あの人消えちゃったけど、どこ行っちゃったの!?」
いち早く我に返ったリンが、パニック気味に叫んだ。
俺は消えた男がいた空間を見つめながら、静かに答える。
「今の人は、多分、日本に帰ったんだ」
「まじで!?」
信じられないといった顔でリンが目を見開く。
俺は男が座っていた机へとゆっくり近づいた。見ると、机の上には開封された大量の小袋――AWOのミニゲーム『アルカディア・カード・サーガ』の空パックが大量に散らばっていた。
俺はその袋を1つ、拾いまじまじと見つめた。
「この中から出てきたってことか……」
ポツリと呟き、ゆっくりと顔を上げる。
俺の視線の先には、店の片隅にひっそりと置かれているカード自販機があった。
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