028 お祭り実行委員会
ゲームセンターでの白熱した麻雀を楽しんだ後、俺たちおじさん三人は、なぜか『日本人街開発組合』の事務所へと呼び出されていた。
トントントン
「失礼します。テツです」
立派なドアを開け、テツが先陣を切って足を踏み入れる。
事務所の中は、およそファンタジー世界とは思えない光景が広がっていた。机の上には書類の山が高々と積まれ、その奥で二十代後半くらいの女性が、死んだ魚のような目をしてペンを走らせている。彼女の名前はサエ。この日本人街開発組合のトップである『組合長』だ。
俺たちの顔を見るなり、サエはペンを放り出して立ち上がった。
「テツさん、待ってたよ! やっと組合長を代わってくれるんだね!」
「いや、代わりませんけど? 俺は現場監督ですよ。経営なんて無理です。それに、うちみたいな弱小クランの人間より、大規模クランのクランマスターの方が組合長にはふさわしいでしょう」
テツが冷たく即答すると、サエは頭を抱えて机に突っ伏した。
「あああああ! 建築クランでちょっと事務仕事が出来るからって、面倒事押し付けられてクランマスターにさせられたうえに、組合長まで押し付けられるなんて! 私だって、現場に出てクラフトしたいのに!」
どうやら、真面目で事務処理能力が高いせいで、生産職の醍醐味であるモノづくりを取り上げられ、デスクワークの沼に沈められた悲しき管理職(?)。それがサエだった。
応接セットのソファーに座ったあと、サエはため息を一つして姿勢を正した。
「……ところで、日本への帰還方法が見つかったみたいだね。うちのクランも組合の連中も、今はその話題で持ちきりだよ」
「まあ、当分の間はそうでしょうね」
テツが頷くと、サエは少し期待を込めたような目でこちらを見た。
「テツさん達は、そのダンジョンに挑戦するの? うちのクランでも挑戦したいって連中がいてね。もし行くなら、一緒に行く?」
「勘弁してください。攻略組のトップ層がギリギリで倒せた相手ですよ。生産メインのおじさん三人が混ざったところで、足手まといになるだけです」
「はあ……ダンジョン攻略は、やっぱり厳しいかー」
サエは再び深いため息をつき、肩を落とした。
俺たちのようなエンジョイ系のプレイヤーにとって、その『帰還方法』はあまりにも非現実的すぎるのだ。
「で、今日は何の用で俺たちを呼んだんですか? もしかして、ただの愚痴が言いたかっただけですか?」
テツが話を本題に戻すと、サエは「そうだった」と思い出したように、分厚い紙の束をテツに押し付けた。
「今日の本題はこれ。先日のお田植え祭を見たプレーヤーたちがね、『自分の地元の祭りもやってほしい!』って大量の要望書を出してきたんだよ」
「やればいいんじゃないんですか?」
「人手が足りないんだよ!」
サエが血を吐くような声で叫んだ。
「日本人街の開発も一段落したし、建築クランなら人手が余ってるでしょう?」
「あいつら、『神は細部に宿る』とか適当なこと言って、宿屋や建物の壁とか柱とか欄間に、ひたすら細かい彫刻を彫り続けてるんだよ! スキルを使えば一瞬で済むのに手作業じゃないと味がでないとか! 事務仕事に関わりたくないからって、無駄に仕事を引き延ばして逃げてるの!」
「……なるほど。さっきまでいたゲームセンターの壁に、やたらと細かい彫刻が施されていたのは、そのせいか」
テツが呆れたように呟く。職人魂が、現実逃避に使われているらしい。
「というわけで、テツさん達を『お祭り実行委員会』に任命します! 産直市場を、お祭り実行委員会の事務所にしておいたから。看板も作っておいたから飾ってね」
「……拒否権は?」
「他に引き受けてくれる人を見つけて来てくれれば、いつでも辞めていいよ」
サエは書類の束を押し付けたまま、ニッコリと、しかし絶対に逃がさないという凄みのある笑顔を浮かべた。
「……仕方ないか」
これ以上抵抗しても無駄だと悟ったのか、テツは観念したように書類の束を受け取った。
「まあ、乗りかかった船だ。俺とシュウも手伝うから、ボチボチ頑張っていこうぜ」
俺がテツの肩を叩いて慰める。
おじさん三人組の新たな任務――異世界での『お祭り』が、こうして幕を開けたのだった。
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