026 ジンギスカン
王都の郊外にある、ログハウス風の俺たちのクランハウス。
その小さな庭にはシュウが用意したジンギスカン鍋が置かれ、昼間に俺たちが狩ってきた新鮮な羊肉がたっぷりの野菜と一緒に焼かれている。
羊肉の焼ける香ばしい匂いと、ジュージューという食欲をそそる音に包まれていた。
「ふーん、日本への帰還方法が追加されたダンジョンのボス討伐ねー。難しいの?」
シュウ特製のタレが染み込んだ肉をひっくり返しながら、リンが軽い調子で尋ねてきた。
「いまの俺たちじゃ無理だな」
俺はトングで野菜の焼け具合を確認しながら答えた。
「地形のバグとか、システム的な隙を突いた『ハメ技』ができるなら可能だろうけど。真っ向勝負となると厳しい」
「上限人数が何人かわからないが、最高の装備を揃えた攻略組40人でギリギリってことは、相当なもんだよ」
シュウがビールのジョッキを傾けながら、渋い顔をする。
「大体、攻略組は何であんな奴らとつるんでいたんだ?」
「攻略組のフレンドから聞いた話だが、転移初日に人のいいクランマスターが、広場で落ち込んでる奴らに声をかけて、面倒を見たらしい」
「その結果、クラン崩壊か……」
「今回のアップデートで追加された新しい装備を探してから挑めば、もっと楽に勝てたかもしれないな……」
テツは腕を組み呟いた。
すると、リンが肉の焼き加減を気にしながら首を傾げる。
「ダンジョンの上限人数がなければ、100人とか200人とかで一気に戦えば勝てるんじゃない?」
「まあ、試してみる価値はありそうだけど……失敗した時が怖いな。絶対にリーダーにはなりたくないな」
「大勢のメンバーから吊し上げにされるのは勘弁してほしいな」
シュウも心底嫌そうに肩をすくめる。
圧倒的な力を持つボスに何百人で挑んで、ただ順番に惨殺されていく地獄絵図になる可能性だってあるのだ。
「装備の更新も視野に入れるか」
テツが真面目な顔で俺たちを見回した。
「そもそも俺たちの装備、どれだけ前の最強装備だ?」
スライム討伐の時に持ち出した、伝説級の金属で鍛えられた鎧や魔法衣。確かに強力だが、MMORPGにおいて『最強』の座はアップデートのたびに更新されるのが常だ。
「……たしか、三年以上前だよな」
俺が記憶を探りながら答えると、テツとシュウも無言で頷いた。生産職メインで遊んでいた俺たちは、戦闘用装備の更新をずっとサボっていたのだ。
「ええーっ……」
それを聞いたリンが、絶望したようにテーブルに突っ伏した。
「ちょっと、レベル1から始めた私は、一体何年日本に帰れないのよ……!」
嘆くリンを見て、テツは少し慰めるように口を開いた。
「そうなるよな……。だが、あのボス討伐だけが唯一の道とは限らない。他にも帰還方法がありそうだが」
「そうだな。いろいろ情報を探してみるか」
シュウが鍋の前でパンッパンッと手を叩いて空気を変えた。
「よし! そろそろ肉が食い頃だぞ。暗い話はやめにして、焦げる前に食おうぜ!」
「待ってました!」
「私の分も残しておいてよ!」
俺たちは一旦難しい話を脇に置き、こんがりと焼けた羊肉を口の中へと運んだ。
ジューシーな肉の旨味とタレの絶妙な甘辛さが口いっぱいに広がり、異世界の不安をほんの少しだけ忘れさせてくれる。
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7:00・12:00・18:00に投稿予定。




