025 チケット
城壁の北門は、異様な熱気に包まれていた。
どうやら新しく実装されたダンジョンへ向かっていた『攻略組』が帰還したらしい。
俺たちは門を通ることができず、少し離れた場所で立ち聞きをするしかなかった。
「どういうことだ、何であんた一人だけで帰ってきたんだ!?」
「日本への帰還方法は、見つかったのか!?」
血相を変えて詰め寄っているのは、街で威張りくさっていた後方支援組の連中だ。彼らが取り囲んでいる中心には、たった一人で帰還した攻略組のクランマスターが立っていた。
「……帰還方法は、見つかった」
疲労を滲ませた声で、クランマスターが答える。
「ダンジョンのボスを倒す。そうすれば、戦闘の参加者に日本へ帰れるチケットが配られる」
その言葉を聞いた瞬間、後方支援組の間から「おおおおおーーー!!!」と割れんばかりの歓声が上がった。
「なるほど、意外と簡単に見つかったな」
俺が小声で呟くと、隣にいたテツも腕を組みながら頷く。
「そうだな。問題は、難易度だな」
だが、歓喜に沸く連中を冷ややかな目で見据え、クランマスターは一枚のチケットを取り出して見せた。
「これは、俺専用のチケット。俺以外には、使えない」
「なっ……!?」
一瞬で静まり返った後、後方支援組は一斉にパニックに陥った。
「そ、それでは、私たちもボスと戦って勝たないといけないのか!?」
「わ、私を守りながら戦え! そして日本に帰してくれ!」
ギャーギャーと見苦しく喚き散らす連中に、クランマスターは静かに、だがはっきりと告げた。
「無理だ」
ざわめきを切り裂くような、重い一言だった。
「今回の攻略に参加したメンバー、40人が死力を尽くして戦って、ギリギリで勝てた相手だ。戦闘後……私以外のメンバーがクランから脱退した」
「なっ……」
「なぜだかわかるか!」
クランマスターの堪えきれない怒りが、声となって爆発した。
「ろくな物資も寄越さず、安全地帯から『攻略が遅い!』と文句を言うだけ! 俺たちは貴様らの駒じゃない!」
「何だと! 俺たちは、後方支援を……」
なおも自分たちを正当化しようとする言葉を、クランマスターが冷徹に叩き潰す。
「フレンドから聞いたぞ。他のプレーヤー達に無理矢理物資の提供をさせたらしいな。俺のクランの名前を使って好き放題しやがって!」
図星を突かれた後方支援組の一人が、顔を真っ赤にして逆ギレした。
「うるさい! テメーは黙って俺たちを日本に帰せばいいんだよ! このゲームオタクが!」
その瞬間、クランマスターの顔から一切の感情が抜け落ちた。
彼は反論することすら無意味だと悟ったようだ。無言で空中にステータスウィンドウを呼び出し、いくつかの操作を終えると、彼はポツリと言った。
「今、クランを解体した。後は好きにしろ」
言うが早いか、彼はアイテムボックスから一本のスクロールを取り出し、躊躇いなく使用した。まばゆい光が弾け、次の瞬間にはもうクランマスターの姿はそこになかった。
「おい、嘘だろ!?」「ふざけんな!」「お前が余計なこと言うからだろ!」「俺のせいじゃねえ!」
完全に見捨てられた後方支援組は発狂し、あちこちで醜い責任のなすりつけ合いが始まっている。
「あれは瞬間移動のスクロールか」
テツが冷静に分析するように呟いた。
「死んでも復活するとはいえ、ダメージを受ければリアルな痛みを感じるんだ。よく、ボスを倒せたな」
俺は、姿を消したクランマスターたちの壮絶な戦いを想像して息を吐いた。痛みも恐怖も現実と変わらないこの世界で、攻略組の40人が死力を尽くすほどの死闘。どれほどの地獄だったのか見当もつかない。
「攻略組がこの街に帰ってくることは、もうなさそうだな」
シュウが呆れ半分に言い捨てる。俺たちの視線の先では、かつて安全圏でふんぞり返っていた連中が、お前が悪いとギャーギャー仲間割れを続けている。
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