022 お田植え祭
五月末日。
俺の思いつきから始まった『お田植え祭』が、いよいよ開催の日を迎えた。
まずは、日本人街に建てた神社の前に、参加者全員が集合する。
集まった参加者たちと一緒に、神殿に向かって深々と頭を下げ、これからの豊作を祈願した。
神社での祈願が終わると、俺の農園がある王都の郊外を目指して、大行列の行進が始まった。
「そーれ!」
ドンドンッ! ピーヒョロロ!
先頭を歩くのは、笛や太鼓を持ったお囃子だ。和楽器を鳴らしながら練り歩く様は、まさに日本のお祭りそのものだった。
華やかな音色と鮮やかな幟にはためく列を見て、噂を聞いて見物に来ていた王都の住民たちも目を丸くしながら楽しそうにしている。過酷な異世界転移のストレスで塞ぎ込んでいたプレイヤーたちも、今日ばかりは懐かしい空気に触れて笑顔を浮かべていた。
賑やかな行進を続け、やがて一行は俺の大規模農園の一角に到着した。
そこには、この日のために準備した特別な田んぼ――『神饌田』が用意されている。
田んぼの前に組まれた祭壇に進み出たのは、神主役のテツだ。
神社を建てる前の地鎮祭で見様見真似の神主をやっていたが、今回もテツにやってもらうことになった。
「かしこみー、かしこみー……」
相変わらず少し胡散臭い祝詞ではあったが、妙に様になってきており、周囲の空気も自然と厳かなものになった。
祭礼が終わると、次はいよいよ俺の出番だ。
「よし、出番だぞ。行けっ!」
俺は先日テイムしたばかりの巨大な野牛、シルバーバイソンと共に神饌田に入る。
シルバーバイソンに馬鍬引かせ、田んぼの泥を平らにする『代掻き(しろかき)』の作業だ。
ファンタジー世界のモンスターが日本の伝統的な農作業を手伝うというシュールな光景に、周囲からは「おおーっ」と歓声が上がった。
代掻きが終わり、泥が平らにならされたところで、いよいよ田植えの本番だ。
この日のために集まってくれた参加者たちは、女性は菅笠を被り紺の単衣に赤い襷がけの『早乙女』姿、男性は動きやすい白い作務衣のような『田作男』姿にバッチリ着替えている。
チリン、チリーン……。
巫女役の参加者が鳴らす澄んだ鈴の音。
それを合図に、早乙女と田作男たちが等間隔に張られた紐に沿って、小さな苗を丁寧に植え始めた。
泥に足を取られて笑い合う声や、お囃子のBGMが初夏の青空に吸い込まれていく。
やがてすべての苗が植え終わると、最後に再び祭壇に向かって全員で今年の豊作を祈り、お田植え祭の神事は無事に幕を閉じたのだった。
「おーい、みんなお疲れさん! 飯ができてるぞー!」
祭りの余韻に浸っていると、シュウのよく通る声が響き渡った。
見れば、田んぼの近くでシュウが腕によりをかけた特製のラーメンを作っていた。
「うおぉぉ! ラーメンだ!」
「仕事の後のラーメン最高!」
連日行列を作っているシュウのラーメンが振る舞われるとあって、参加者たちのテンションは最高潮に達した。
俺もテツと一緒に、湯気の立つどんぶりを受け取る。
ズルズルッと麺をすすり、熱いスープを胃に流し込むと、心地よい疲労感と共にじんわりと美味さが染み渡った。
「いやー、いい祭りだったな」
「ああ。少しは気晴らしになっただろう」
青々とした神饌田を眺めながらラーメンをすするおじさん。
波乱万丈な異世界生活だが、こういう平穏で美味い時間があるなら、悪くないスローライフかもしれない。
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