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021 後方支援

夕方。


俺は、シュウとテツと『お田植え祭』の相談をした後、産直市場に併設されたシュウのラーメン屋で夕食を食べていた。


「うん、豚骨と魚介のスープ。あっさりしててスルスルいけるな」


レンゲでスープをすすりながら感想をこぼすと、隣で麺を啜っていたテツも満足げに頷いた。


「美味いな。セットの炊き込みご飯もいけるぞ。それにしても……このスプーンとフォークが合体したやつ、面白いな」


テツが手元でくるくると回して見せたのは、スプーンにフォークの歯が付いた、ラーメンスプーンというものだ。このラーメンには、このラーメンスプーンがないと、とシュウがこだわった結果だ。


木の温もりを感じる店内で、美味いラーメンと気の置けない仲間との他愛のない会話。日々の疲れがじんわりと溶けていくような、最高の時間だった。


だが、そんなのんびりとした空気は、乱暴に開けられた引き戸の音によって唐突にぶち壊された。


「おい、お前たち! 呑気に飯なんか食って、どういうつもり!?」


ヒステリックな声と共に、お揃いの腕章をつけた数人のプレイヤーが店に押し入ってきた。腕章には攻略クランのマークが書かれている。先頭に立つ神経質そうな細身の男が、俺たちを睨みつけた。


「俺たちは前線で戦う攻略組のために、物資の供出と節約を呼びかけてるんだ! それなのにあんたたちは、大量の木材を消費して無駄な神社や銭湯を建てて、あまつさえこんな贅沢な食事を出して商売をしている! これは前線で血を流している攻略組への侮辱だぞ!」


男の剣幕に、店内で食事をしていた他のプレイヤーたちが気まずそうに目を伏せる。

どうやら彼らは、一刻も早く現実世界に帰りたいと強く願うあまり、後方支援と称して王都の風紀や物資管理を仕切ろうとしているらしい。


俺はラーメンスプーンを置き、ゆっくりと立ち上がった。


「あんたらの言い分は分かる。早くクリアして元の世界に帰りたいよな。だが、俺たちのやってることが攻略組への侮辱ってのは、少し違うんじゃないか?」

「何が違うって言うんだ! 神社や銭湯なんて、この非常事態に必要ないだろう!」


男が激しく反論する横で、テツがドンッと音を立てて丼を置いた。


「必要ねぇだと? じゃあ聞くが、あんたらその『支援』とやらで、前線の連中のメンタルまでケアできてんのか?」


「メ、メンタル……?」


「そうだ。痛覚設定が無くなったこの世界で、毎日前線で戦う攻略組のストレスは計り知れない。人間、張り詰めたままで戦い続けられるほど頑丈じゃねぇんだよ」


テツの凄みのある低い声に、自治委員の男が怯んだように一歩後ずさる。俺はそこに、あえて穏やかな声で畳みかけた。


「あんたらが前線にポーションや武器を送るのが『直接支援』なら、俺たちがやってるのは、この王都を絶望から守る『間接支援』だ。全員にギリギリの我慢を強いてギスギスさせるより、少しでも笑える場所を作った方が、結果的に攻略は早くなる。……違うか?」


男はぐっと言葉に詰まり、悔しそうに唇を噛んだ。彼らとて悪人ではないはずだ。ただ、終わりの見えない恐怖と焦りから、周りに八つ当たりをしただけなのだろう。


「ま、そうカリカリすんなって」


カウンターの中でシュウが人の良さそうな笑みを浮かべている。


「ラーメンでも食うかい? あんたたちも、無理して気を張って疲れてるんだろ? 腹が減ってちゃ、冷静な話し合いもできないからな」


「 ク、クソっ! ろくに戦わないくせに、口だけは達者な連中が! お前ら、顔は覚えたからな! もし帰還方法が分かっても、貴様らには絶対に教えないからな!」


子供のような負け惜しみの捨てゼリフを吐き捨てると、彼らは足音荒く店から出ていった。


「やれやれ……なんなんだ、あれ?」

「あれだ、あれ、朝ドラとかでさ、戦時中にヒロインがいちゃついてると『お国の為に戦ってる兵隊さんに申し訳ないと思わんのか!』って、わざわざ注意してくる近所のおっさん。……さっきの連中、あれにそっくりだったな」


テツの例えに、俺は思わず吹き出してしまった。


「違いない。ヒコクミンガーってやつか」


再びラーメンをすすりながら、俺たちは困ったような、それでいてどこかおかしな笑いをこぼすのだった。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

もしよろしければ、『ブックマーク』と『星評価』をしていただけると、ものすごく嬉しいです。

これからも頑張って更新しますので、引き続きよろしくお願いいたします!


7:00・12:00・18:00に投稿予定。

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