016 組合
夜。
隠れ家ギルドでテーブルを囲み、木製ジョッキを傾けていると、テツが真面目な顔つきで切り出してきた。
「王都郊外の日本人街の開発だが、ひとまず『組合』を作って進めることになった。ゲンとシュウも、組合に入って一口乗らないか?」
「組合か……。とりあえず、どういう計画なのか説明してもらっていいか?」
俺がジョッキを置いて先を促すと、テツはテーブルに広げたメモを指差した。
「場所は城壁南門と土塁の中間地点。そこの空き地を日本人街として開発する。テント暮らしをしているプレイヤーが山ほどいるからな。冬が来るまでに、あいつらに寒さを凌げる住まいを用意してやらないといけない」
南門を出てクランハウス街を抜けた先の空き地を日本人街にする予定らしい。
城壁南門近くの地価が高い一等地には大手のクランハウスが既に建っている。
ちなみに俺達のクランハウスは、南門から離れたちょっと地価の安いエリア。俺がプランテーションをしているエリアは、王都の外周、土塁近くの南東の一番安いエリア。
「そこで、広く出資を募って資金を集め、土地を購入して建築を進めるって流れだ。出資者には家賃収入から維持費や次の建設資金を引いて、残った分を配当する予定になってる」
「なるほどな。で、どんな街を作るつもりなんだ?」
俺の問いに、テツはニヤリと笑みを浮かべた。
「最初は、小さな『神社』を作る」
「……神社?」
「ああ。建築業ってのは、昔から験を担ぐ人間が多いからな。まずは神様に挨拶をしないと始まらない。そこでゲン、お前に頼みがある。地鎮祭で使う米と野菜を準備してほしい」
「野菜はなんでもいいのか?」
「基本的に何でもいいが。そうだな『ん』がつく野菜を供えると運が付くっていうから――れんこん、にんじん、なんきん(カボチャ)なんかを用意してほしいんだ」
「なるほど、そういうことか。いいぜ、それくらいならすぐ用意できる」
俺が二つ返事で引き受けると、テツは満足げに頷いて計画の続きを語り始めた。
「神社ができたあとは、銭湯と、一階が飲食店の宿屋を建てる。とりあえず全員に部屋が行き渡ったら、娯楽施設なんかも作っていきたいところだ」
「宿屋か……今のプレイヤーの数を考えると、一体どのくらいの部屋数が必要になるんだ?」
シュウの質問に、テツは肩をすくめた。
「さてな。だが今は、とにかく急ぎで数が必要だ。ベッドが置けるだけの狭い部屋を大量に用意する。不満がある奴は、金を貯めて戸建てを建ててもらって、出ていってもらうさ」
「おいおい。そうなると、将来的にプレイヤーたちが自立し始めたら、要らなくなる宿屋が大量に出そうだな」
「そこも織り込み済みだ。要らなくなった宿屋は、リフォームして店舗や職人の工房に変える予定になってる」
先まで見据えた計画に、俺は感心するしかなかった。
話を聞き終えたシュウが、口を開く。
「よし、分かった。俺も一口乗ろう。正直、ラーメン屋が忙しすぎて参ってたんだ。日本人街に店ができて客が分散してくれるなら、こっちとしても助かる」
「俺も乗るよ。農産物の販売で儲けさせてもらったからな。出資金くらいは余裕で出せる」
俺とシュウが賛同し、これで話はまとまったかと思ったその時だった。
「ねえ、その話、私も乗っていいかしら?」
隠れ家ギルドでウェイトレスをしているリンが話に入ってきた。
「お前もか?」
「ええ! ゲンさんの農産物の卸売手数料で、私のお財布も結構潤ってるのよね。それに、新しい街ができるなら市場も活気づくし、投資しない手はないわ!」
自信満々に胸を張る彼女の姿に、俺たちは顔を見合わせて思わず笑い声を上げた。
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