013 炊き出し
魔法の鍋から立ち昇る湯気と、食欲をそそる温かな匂い。
シュウの呼びかけで集まった料理人のフレンドたちによる炊き出しは、波乱の幕開けとなった。
「お、俺にもくれ!」「押すな、子供がいるんだぞ!」
無料で食料が配られると聞きつけた人々が一斉に押し寄せ、教会の広場はパニック寸前の混乱に陥った。
しかし、この事態を救ってくれたのは教会の人々だった。彼らが手慣れた様子で素早く列を整理し、穏やかな声で人々を諭すと、殺気立っていた群衆は嘘のように落ち着きを取り戻してくれた。
彼らの協力もあり、結果的に大きなトラブルが起こることもなく、第一日目の炊き出しは無事に終了することができた。
夜。
喧騒から離れた『隠れ家ギルド』では、ジョッキの触れ合う音が響いた。ささやかなお疲れ様会を兼ねた反省会だ。
テーブルを囲む炊き出しメンバーの顔には疲労が滲んでいたが、同時に確かな達成感も浮かんでいた。
喉を潤し、ひと息ついたところで、俺は忙しく働くリンに話しかけた。
「リン、市場の方はどうだ?」
山盛りのフライドポテトをテーブルに置きながら、リンは肩をすくめる。
「まだ二日目よ? 少し、相場が下がったかなって感じね」
「そうなのか……」
期待したほどの成果が出ていないことに、俺は少しだけ眉間を寄せる。
「勘のいい商人は、値崩れを恐れて隠し持っていた在庫を出し始めているわ。でも、まだまだこれから値上がりするって踏んでる強欲な商人が多いのよ。こっちは『毎日大量に出荷する』って、わざわざ宣言してあげてるのにね」
呆れたようにため息をつくリンに、俺は頷いた。
「分かった。引き続き頼んだぞ」
「ええ、任せなさい!」
俺とリンのやり取りを聞いていたシュウが、安堵の息を吐きながら口を開いた。
「まあでも、とりあえず、これで食料問題には一応の目処がついたってことだな」
暴騰していた食料価格を抑え込み、飢える者を減らす。その第一段階は間違いなくクリアしつつある。だが、俺たちの安堵の空気は長くは続かなかった。
壁に背を預けてエールを飲んでいたテツが、静かに現実を突きつけてきたのだ。
「となると次は、住宅問題か」
その言葉に、部屋の空気が重くなった。
「はあ……次から次に問題が出てくるな」
俺は頭を抱えて、深く息を吐き出した。食料が足りたとしても、雨風を凌ぐ場所がなければ、いずれ人々は倒れてしまう。
「仕方ないでしょ」
リンが苦笑混じりに、事実を口にした。
「王都に住む人間がいきなり倍近く膨れ上がったのよ。むしろ、これで何も問題が起こらない方がおかしいわよ」
リンの言葉に俺は苦笑いをすることしか出来なかった。
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