閑話 護衛兵ディークの後始末
護衛中に浮浪児に石を投げられ馬車を損傷させた挙句、ベルク様が少女を馬車に運び込むのを黙認し、ベルク様はその後少女に噛みつかれて怪我をした。
そう正直にガルム様に報告した。
殴られた。
四人全員、殴られた。
ガルム様に殴られてまだ、生きているということは手加減はしてくれたのだろう。
俺、ディークは三発殴られた。
他の三人は一発ずつ。
なぜ俺が三発かと言えば、馬車の横についていたのが俺だからだ。
一発目は、ベルク様を降ろしたこと。
二発目は、ベルク様が襲撃者に近づくのを許したこと。
三発目は、汚い浮浪児をベルク様の馬車に乗せるのを止めなかったこと。
三発目が一番重かった。
「分かっているのか。ベルク様が病をもらったらどうする。噛まれていただろう、傷から何が入るか分からんのだぞ」
ガルム様の言葉は正しい。
護衛としては、あの場面で俺がすべきことは明確だった。
ベルク様を馬車に戻す。
浮浪児には近づかせない。
それが仕事だ。
それは分かっている。
分かっていて、止めなかった。
ガルム様は俺の顔を見て、少し黙った。
「……なぜ止めなかった」
なぜか。
正直に言えば、分からない。
あの時、ベルク様が馬車を降りた。
石畳に足をつけた。
七歳の、小さな体だ。
俺の腰ほどの背丈しかない。
そのベルク様が、路地の奥にうずくまっている少女に向かって歩き始めた時、止めようと思えば止められた。
肩に手を置くだけでいい。
ベルク様、危険です。
その一言を言えばよかった。
必要なら力ずくで静止することもできた。
だが、そうしなかった。
一人の少年が路地でその命を終えようとしている少女へ向かい手を差し伸べる。
そこには、現実がたとえそうでなかったとしても、そうあって欲しいと思うもの、一種の理想があったような気がしたのだ。
自分は貧乏な家に生まれた。体が強かったから兵士として食えている。だが、食えずにのたれ死ぬ光景は何度も見てきた。
つまり、俺は止めたくなかったのだ。
「……止めたくありませんでした」
ガルム様の目をまっすぐに見つめて本心を言った。
ガルム様はしばらく俺を見ていた。
それから、もう一発殴られると思った。
だが、殴られなかった。
心なしか、表情の険しさが和らいでいるようにも思えた。
「次はない。分かっているな」
「はい」
「ベルク様に何かあれば、お前の首では足りんぞ」
「承知しております」
ガルム様は背を向けた。
それで終わりだった。
部屋を出て、廊下で他の三人と合流した。
全員、頬が腫れている。
「ディーク、三発だったろ。ご愁傷様」
「うるせぇ」
「で、なんで止めなかったんだよ、実際」
俺は少し考えて、少し言い方を変えて言った。
「……カッコ良かったからだな」
三人とも、黙った。
それから、一人が小さく頷いた。
「分かる」
もう一人も言った。
「カッコよかったよなー、ベルク様」
最後の一人も言った。
「街で、ああいう子どもに出会ったら避けてた自分を恥じたね俺は」
「あれは将来絶対大物になると思うね」
「でも、三男だろ」
「いや、レオンハルト様に今回のことを任されていることを考えると、あるいは」
「そういえば、最近剣の腕前も上がってきてますよね、ベルク様」
俺たちの間で、ベルク様の評判は悪くなかった。
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