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行き止まりの神 —全能のパラドックス:封印された僕が世界を終焉させるまで—  作者: Daikon


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20/21

彼を映せ



午後のカフェはゆっくりと時間が流れていた。


ランチの客は来ては去り、老女は奥で皿を洗いながら、かつては歌だったかもしれない何かを鼻歌で唄っていた。シュウはマヤの向かいに座り、彼女がスマホをスクロールするのを眺めていた。彼女はまだ討論の高揚感に浸っていた。まだフォーラムをチェックしていた。まだ自分に同意する人も同意しない人も、そのコメントを読んでいた。


「そのうち疲れるぞ」とシュウは言った。


「大丈夫」


「三時間もその画面を見つめてる」


マヤは顔を上げた。彼女の目は疲れていた。しかし彼女は笑っていた。


「これが勝つってことなんだよ」


「勝つってことは疲れることなのか?」


「勝つってことは証明することなんだ」彼女はスマホを置いた。コーヒーを手に取った。冷めていた。彼女は気づいていないようだった。「何ヶ月もあいつと議論してきたんだ。何ヶ月も。そして今、みんなが見た。みんながあいつが諦めるのを見た」


シュウはうなずいた。


「トイレに行ってくる」マヤは言った。立ち上がり、伸びをした。「コーヒーもう一杯注文しといて?」


「いつもの?」


「いつもの」


彼女はカフェの奥へ歩いていった。シュウは彼女を見送った。それから窓の外を見た。


通りは普通だった。建物。車。ベビーカーを押す女性。犬を散歩させる男。


隙間もなかった。無もなかった。ただの日常だった。


彼は左手の平を見た。


在る


まだそこにあった。


彼はマヤのコーヒーをもう一杯注文した。老女が運んできた。湯気が天井に向かって立ち上った。


マヤは戻ってこなかった。


---


一分。二分。五分。


シュウは席で体を捻った。トイレへ続く廊下は空っぽだった。ドアは閉まっていた。ドアの小さな表示は「空いてます」を示していた。


彼はもう一分待った。


それから立ち上がった。


トイレのドアへ歩いた。


ノックした。


返事はなかった。


「マヤ?」


沈黙。


彼はドアを押し開けた。


トイレは空っぽだった。


いや、空っぽではなかった。トイレはそこにあった——洗面台、鏡、便器、ペーパータオルディスペンサー。しかしマヤはその中にいなかった。そして背面の壁——しっかりしているはずの壁、トイレとカフェの裏の路地を隔てていた壁——が消えていた。


その代わりに、ひび割れがあった。


細い。垂直。闇よりも暗い。


シュウはそれを見つめた。


ひび割れは見つめ返した。


目ではなく。存在感で。向こう側に何かがいるという紛れもない感覚で。待っていて、見ていて、息をしている。


シュウは考えなかった。


彼は足を踏み入れた。


---


ひび割れは彼を飲み込んだ。


暴力的ではなく。優しくもなく。ただ——不可避的に。存在を知らなかったドアをくぐって、ずっと立っていた部屋に入るように。


空気はおかしかった。


冷たくもなく。熱くもなく。ただ——静止していた。自然界には存在しない種類の静止。空気が一度も動いたことがなく、風が発明されたことがなく、「そよ風」という概念が外国語である場所から来る種類の静止。


地面は黒かった。


塗られた黒ではない。影の黒でもない。不在の黒。光が触れ方を知らないから光を反射しない種類の黒。


そして目があった。


シュウは目を見たことがあった。天使の目。無の睨み。しかしそれらは彼を見ていた。これらはただ——そこにあった。どこにでも。空に。地面に。意味のない距離を浮かんでいる空中に。小さな目。大きな目。瞳孔のある目。ない目。ほとんど意味のあるパターンで瞬きする目。全く瞬きしない目。


数百万。


数十億。


それ以上。


そしてその全ての中心に——


男がいた。


吊るされている。


彼の手首は、折れた歯のように黒い地面から立ち上がる柱に縛られていた。鎖は太くて暗く、わずかに存在する光さえも飲み込むようだった。男の頭は下を向いていた。彼の体はぐったりと吊るされていた。死んでいるのかもしれない。眠っているのかもしれない。あるいは完全に別の何か——この場所が作り出せる最も近い形だから、ただ人間のように見えているだけの何か。


シュウの胃がひっくり返った。


「マヤ」


彼女は膝をついていた。吊るされた男から十フィート。彼女の体は震えていた。彼女の手は黒い地面に押し付けられていた。まるでそれを固定しようとしているかのように。


彼は彼女のところへ走った。


---


「マヤ」


彼女は顔を上げなかった。


「マヤ、俺だ。シュウだ」


彼女の呼吸は速かった。速すぎた。彼女の肩は緊張していた。


「目が」彼女はささやいた。「どこにでもある」


「知ってる」


「やめられない——見るのをやめられない。目を閉じても。まだそこにいる」


シュウは彼女の隣に跪いた。彼女の背中に手を置いた。彼女は身をすくめた——それから彼に寄りかかった。


「ここはどこ?」と彼女は尋ねた。


「分からない」


「どうして私がここにいるの?」


「それも分からない」


彼女は吊るされた男を見上げた。彼女の顔は青白かった。彼女の唇はほとんど青かった。


「あれは誰?」


シュウは男を見た。鎖。柱。静止。


「分からない」


男は動かなかった。呼吸もしなかった。彼が生きていると証明するようなことは何もしなかった。


しかし彼の目——彼の目は閉じられていた。


それが最も恐ろしい部分だった。


なぜなら、この場所の他の全てには目があったから。数千。数百万。数十億。しかし男——人間のように見える唯一のもの——は目を閉じていた。見ないことを選んだかのように。見ることが吊るされていることよりも悪いかのように。


---


マヤは叫んだ。


大きくはなかった。長くもなかった。短く、鋭い音——刃が見えないうちに何かが彼女を切ったかのようだった。


シュウは彼女の肩を掴んだ。


「マヤ。何があった?」


彼女はもう吊るされた男を見ていなかった。目も見ていなかった。彼女は無を見ていた。黒い地面。自分の手の間の空間。


「見たの——」彼女の声は途切れた。


「何を?」


「私の父を」


シュウの血が凍った。


「彼は——」彼女は止まった。唾を飲み込んだ。再び始めた。「彼は病院のベッドにいた。チューブだらけ。機械がピーピー鳴ってて。それから——」


「それから?」


「ピーピーが止まった。そして彼は——」彼女はシュウの腕を掴んだ。彼女の指は冷たかった。冷たすぎた。「彼は死んだ、シュウ。父が死ぬのを見た」


「マヤ、それは実際には起きてない。君の父は——」


「知ってる」彼女の声はおかしかった。平坦だった。「実際には起きてないって分かってる。でも見たの。感じた。そこにいた」


シュウは目を見た。


それらはまだ見ていた。まだ観察していた。まだ記録していた。


「この場所だ」と彼は言った。「君に色々なものを見せてるんだ」


「どうして?」


彼には答えがなかった。


---


今回は彼女は叫ばなかった。


彼女は硬直した。背筋が伸びた。手が体の横に落ちた。彼女の目——彼女の目は開いていたが、何も見ていなかった。


「マヤ」


反応なし。


「マヤ」


彼女の唇が動いた。音は出なかった。


シュウは彼女の肩を揺さぶった。


何も起こらなかった。


それから——彼女の声が聞こえた。小さく。壊れて。


「私の母」


「母がどうしたんだ?」


「彼女は車に乗ってた。仕事から家に帰る途中。雨が降ってた。道路は濡れてた。そして別の車が——」マヤの息が詰まった。「どこからともなく現れた。赤信号を無視した。彼女の車の側面にぶつかった」


「マヤ——」


「彼女は即死だった。医者がそう言ったの。『即死でした』って。それで良くなるはずなのに」涙がマヤの顔を伝った。彼女は気づいていないようだった。「私は学校にいた。知らなかった。昼食を食べてた。友達の何かに笑ってた。そして彼女はもう死んでた」


シュウは彼女を引き寄せた。


「現実じゃない」と彼は言った。


「現実に感じた」


「現実じゃない」


「知ってる」彼女の声は彼の肩に押し付けられてくぐもっていた。「でも現実に感じた」


目は見ていた。


男は吊るされていた。


黒い地面は全ての方向に広がっていた。


---


マヤは彼から押しのけられた。


「やめて——」彼女は言った。「やめて、やめて、やめて——」


「マヤ、どうしたんだ?」


彼女は耳を塞いだ。何かを遮断しようとするかのように、両手を頭に押し付けた。


「見えるの」と彼女は言った。「全部。私が愛した全ての人。死んでいく。何度も何度も。違う方法で。違う時に。違う——」彼女は息を飲んだ。「違う可能性で」


シュウは目を見た。


それらはただ見ているだけではなかった。


それらは見せていた。


彼は今それを感じることができた。空気を通して滲み出るイメージ。彼に向けられているのではなかった——彼女に向けられていた。しかし彼にも断片が届くほど近かった。溺れる兄弟。転ぶ祖母。車に轢かれる子供の頃のペット。治療法のない病気で奪われる友人。


それぞれの死は違っていた。それぞれの死は具体的だった。それぞれの死は——新しい方法で傷つけるように作られていた。


そしてそれらは数千あった。


数百万。


それ以上。


「どのくらい?」シュウは尋ねた。


「私——」マヤの声はひび割れた。「数えられない。次から次へと来る。違うバージョン。違う時間軸。私の父——父が死ぬのを百回見た。千回。毎回違う。心臓発作。癌。事故。老衰。殺人。自殺。私は彼が——」


彼女は言い終えられなかった。


シュウは彼女を抱きしめた。


目は見ていた。


男は吊るされていた。


そして死は続いた。


---


それは音ではなかった。


それは圧力だった。誰かが直接彼の頭蓋骨に思考を押し込んでいるかのようだった。


「少女は見ている」


シュウは目を見上げた。それらは全て今やマヤに集中していた。敵意はなかった。飢えもなかった。ただ——興味。


「やめろ」とシュウは言った。


「彼女は私たちが見るものを見ている。無限の可能性。分岐する道。ありえたかもしれない死」


「やめろ」


「私たちは見せていない。私たちは映しているだけだ。彼女が見るもの——彼女が持ってくるものだ」


シュウはマヤを見た。彼女の目は今閉じられていた。しかし涙はまだ漏れ出ていた。彼女の体はまだ震えていた。


「彼女は何も持ってきてない。お前たちがやってるんだ」


「私たちは鏡だ。すでにあるものを映すだけだ」


シュウは立った。目に向き合った。全ての目に。


「お前が何であろうと構わない。彼女に見せるのをやめろ」


目は瞬きしなかった。


「私たちはやめられない。映すだけだ。彼女が見るのをやめたいなら——彼女は見るのをやめなければならない」


シュウは再びマヤの隣に跪いた。


「マヤ。俺の話を聞け」


彼女は応答しなかった。


「マヤ。見るのをやめなきゃだめだ」


「やめられない」彼女はささやいた。「どこにでもある」


「目を閉じろ」


「まぶたの内側にもいる」


「じゃあ、俺を見ろ」


彼女は目を開けた。


赤く。腫れて。恐怖で満ちていた。


「俺を見ろ」とシュウは再び言った。「目じゃない。男じゃない。死じゃない。俺を見ろ」


彼女は彼を見つめた。


「何が見える?」と彼は言った。


「私は——」彼女は唾を飲み込んだ。「あなたが見える」


「他には?」


「何も。ただあなただけ」


「死は?」


「消えた。あなたを見てると——消えた」


シュウは彼女の視線を維持した。


「じゃあ、ずっと俺を見ていろ」


---


彼らがどれだけそこに座っていたか、彼には分からなかった。


数分。数時間。その間の何か。


マヤは彼の顔に目を向け続けた。彼女の呼吸は遅くなった。彼女の肩はリラックスした。彼女の唇に色が戻った。


目は見ていた。


男は吊るされていた。


しかし死は止まった。


「面白い」 再び圧力が来た。「彼は反射を遮断する」


シュウはそれを無視した。


「マヤ。立てるか?」


彼女はうなずいた。


彼は彼女を助けて立ち上がらせた。彼女の足は弱っていた。彼女は彼に寄りかかった。


「どうやってここから出るの?」と彼女は尋ねた。


シュウは周りを見た。ひび割れ——出入口——は消えていた。ただ黒い地面と浮遊する目と吊るされた男だけがあった。


「分からない」


「出入口はお前が来た場所にある。しかしそこへ歩かなければならない」


「どこへ?」シュウは尋ねた。


「男を通り抜けて」


シュウは吊るされた姿を見た。鎖。柱。閉じられた目。


「彼の横を通り過ぎろって言うのか?」


「彼を通り抜けろ。他に道はない」


マヤはシュウの腕を掴んだ。「嫌だ。あんなものの近くに行きたくない」


「あれはものじゃない」とシュウは言った。「人間だ」


「人間でもない」


シュウは再び男を見た。鎖。柱。静止。


彼はその男が何なのか分からなかった。しかし一つだけ分かっていた。


彼らはここに留まるわけにはいかなかった。


「行くぞ」と彼は言った。


マヤは反論しなかった。


彼らは歩いた。


---


柱は近づくとより高く見えた。


鎖はより太く、より暗かった。シュウが通り過ぎても、それらはカチカチともガチャガチャとも鳴らなかった。ただ——音を吸収した。静けさをより重くした。


男の頭はまだ下を向いていた。彼の顔は影に隠れていた。彼の手——頭上に縛られていた——は青白かった。青白すぎた。まるで太陽を見たことがないかのようだった。


シュウは彼の下で止まった。


マヤは彼の背中に押し付かった。


「見上げるな」とシュウは言った。


「そのつもりはなかった」


彼は見上げた。


男の顔は——普通だった。それが最も奇妙な部分だった。全てのものの後で——目、死、黒い地面——男はただの人間のように見えた。疲れている。打ちのめされている。四十歳か五十歳か。はっきりとは言い難い。


彼の目はまだ閉じられていた。


しかし彼の唇は動いた。


言葉ではない。ただ——動き。話そうとしているが、やり方を忘れてしまったかのようだった。


シュウは彼を見つめた。


男の唇が動くのを止めた。


それから——ゆっくりと——彼の目が開いた。


それらは目ではなかった。


それらは空にあったものと同じだった。数千。数百万。巣の中の卵のように彼の眼窩に詰め込まれている。それぞれが異なる時間に瞬きしていた。それぞれが異なるものを見ていた。


シュウは顔をそらした。


「歩き続けるぞ」と彼は言った。


彼らは歩いた。


彼らの後ろで——男の目は再び閉じられた。


鎖はガチャガチャと鳴らなかった。


柱は動かなかった。


しかし何かが変わった。


ひび割れが彼らの前にあった。細い。垂直。闇よりも暗い。


シュウはマヤを押し通した。


それから彼は続いた。


---


トイレはまだ空っぽだった。


洗面台。鏡。便器。ペーパータオルディスペンサー。


背面の壁は再びしっかりとしていた。


マヤは床に座っていた。背中を壁に預け、膝を胸に抱えて。


シュウは彼女の隣に座った。


二人は長い間話さなかった。


老女がドアをノックした。「大丈夫?」


「大丈夫です」とシュウは言った。「すぐに出ます」


老女の足音が遠ざかった。


マヤはシュウを見た。


「あの場所は何だったの?」


「分からない」


「どうしてあんなものを見せたの?」


「それも分からない」


彼女はしばらく黙っていた。


「あの男。吊るされてた人。彼の目、見た?」


シュウはうなずいた。


「彼は何だったの?」


シュウは考えた。鎖。柱。静止。彼の目の内側の目。


「分からない」と彼は言った。「でも——彼は長い間あそこにいるんだと思う」


「どのくらい?」


「私たちより長い。カフェより長い。この街より長い」


マヤは震えた。


「君のアパートに戻ろうか?」とシュウは尋ねた。


彼女はうなずいた。


彼は彼女を助けて立ち上がらせた。


彼らはトイレを出た。老女はカウンターの後ろにいた。彼女は質問しなかった。ただ彼らが去るのを見送った。


通りは普通だった。建物。車。人々。


ひび割れもなければ、目もなく、吊るされた男もいなかった。


しかしシュウは知っていた——それらはまだそこにあった。


見ている。


待っている。


映している。


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