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行き止まりの神 —全能のパラドックス:封印された僕が世界を終焉させるまで—  作者: Daikon


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16/21

準備


カフェは空いていた。


朝のピークは過ぎ、昼の混雑も過ぎた。カウンターの奥の老女は鼻歌を止め、あくびをし始めていた。


シュウとマヤはまだそこにいた。


空のコーヒーカップが倒れた兵士のように彼らを取り囲んでいた。マヤのスマホは壁に繋がれ、充電中だった。彼女のノート——物理的なノート。紙とインクと手書きの文字——がテーブルの上に開かれていた。


シュウはこれほど速く書く人間を初めて見た。


「それで」マヤはペンでページをトントンと叩きながら言った。「実績」


「実績?」


「レオがやったこと。彼がどれだけ強いかを証明するもの。討論で使えるやつ」


シュウはゆっくりとうなずいた。


「それを見つけるのを手伝ってほしいって?」


「整理するのを手伝ってほしいの。実績はもう知ってる。この小説を——」彼女は指を折りながら数えた。「——七回は読んだ? 八回? でも整理するのは別。カテゴリーが必要なの。層。段階」


彼女はノートを彼の方に押し出した。


「はい。書いて」


シュウは白いページを見た。


それからマヤを見た。


「俺はパワースケーラーじゃないよ」


「あなたは聞き手でしょ。それでいいの」


「どうして?」


「パワースケーラーは自分の議論に固執しちゃう。全体像が見えなくなる。聞き手は——」彼女は彼の手をトントンと叩いた。「——聞き手は私たちが見逃すものを見るの」


シュウはペンを手に取った。


それは彼の手に奇妙な感触を与えた。


白い砂漠の木製のペンではなかった。あのペンには重みがあった。密度があった。意味があった。


これはただのペンだった。プラスチック。安物。十二本入りのパックで買う種類の。


彼はそれをカチッと鳴らした。


「よし」と彼は言った。「どこから始める?」


「第一層ね」マヤは言った。「一番簡単。でも一番誤解されてる」


彼女は椅子にもたれかかった。


彼女の目があの輝きを帯びた——何か重要なことを説明しようとするときの輝き。


「大競技祭のサンドボックスの第一層——それは宇宙の消去について。でしょ?」


シュウはうなずいた。


覚えている。第一層。代表者がサンドボックスに入る。サンドボックスが宇宙を生成する。代表者が自分の存在の密度でそれらの宇宙を消去する。


「大抵の人はそれを『惑星レベル』とか『恒星レベル』とか思ってる。でも——」彼女は彼を指さした。「——それは宇宙を破壊することじゃない。消去することなんだ。違いがある」


「どう違うの?」


「破壊は力を加えること。パンチする。爆破する。エネルギーを使う。消去は——」彼女は手で拭くような仕草をした。「——消去は存在を否定すること。宇宙を壊すんじゃない。最初からなかったことにするんだ」


シュウは書いた。


第一層:宇宙の消去。破壊ではない——消去。存在の否定。


「いいね」マヤは逆さ読みしながら言った。「続けて」



「第二層」マヤは続けた。「ここから哲学的になるの」


彼女はコーヒーカップを手に取った。空だった。置いた。


「概念の枠組み。法則の法則。ルールを可能にするルール」


シュウは書いた。


「大抵のキャラクターは第二層を認識することさえできない。まだ物理学の中、因果関係の中、論理の中での動作。でも第二層は——論理の上なの。何が論理かを決めるもの」


彼女はシュウを見た。


「レオは第二層を生き延びただけじゃない。定義を破ったんだ。層が彼に押し付けようとしていた定義よりも、自分の存在の方がより現実的であることを証明した」


「どうやって?」


「帰る場所があったから」


シュウのペンが止まった。


「それは実績じゃない」と彼は言った。「それは——」


「それが全てなの」マヤの声は強かった。「パワースケーリングでは『ハックス』とか『能力』とか『ステータス』について話す。でも時には——時には最も強力なのは理由を持つことなんだ。レオには理由があった。他の代表者たちにはなかった」


シュウは書いた。


第二層:存在論的密度によって概念の定義を破った。理由:「帰る場所がある」


「第三層」マヤは言った。「証明の層」


彼女はスマホを取り出した。何かをスクロールした。見つけた。


「『なぜここに存在するのか?』それが第三層が問う質問。そして答えられなければ——答えが十分に現実的でなければ——溶ける」


シュウは覚えていた。


レオの答え。


「帰る場所がある」


「それだけ?」マヤは言った。「それだけ言ったの?」


「それだけ言う必要があった」


マヤは首を振った。


「分かる? これが私がこの小説を愛する理由。大抵の作者なら第三層を大げさな劇的な戦いにする。爆発。パワーアップ。機械仕掛けの神。でもこの作者は——」彼女はテーブルをトントンと叩いた。「——この作者は理解してた。最も深い戦いは強さについてじゃない。意味についてなんだって」


シュウは書いた。


第三層:「なぜ存在するのか」という問いに「帰る場所がある」と答えた。層はそれを十分と認めた。


「まとめすぎだよ」マヤは言った。


「メモを書いてるんであって、小説を書いてるんじゃない」


「はいはい」


彼女は笑った。


「第四層」マヤはゆっくりと言った。「審判の層」


彼女は真剣な表情になった。


怒っているのではなかった。興奮しているのでもなかった。


真剣だった。


「ここでレオは赤い光の管理者と戦う。定義する力を持つ者」


シュウは覚えていた。


壁。消えた指。レオの存在に押し寄せる定義の重み。


「マヤ——」


「最後まで聞いて」


彼女は息を吸った。


「赤い光の管理者は何でも存在するように定義できた。『ここに壁がある』——すると壁があった。『この壁は越えられない』——すると越えられなかった。彼女の力は絶対的だった——第四層のルールの中では」


「でもレオはそれを越えた」


「レオは自分自身を壁に書き写した」マヤの目は見開かれていた。「定義を破ったんじゃない。上書きしたんだ。自分の存在で。自分が誰であるかの密度で」


シュウは黙っていた。


「それは——」マヤは言葉を探した。「——それは力じゃない。能力じゃない。在ることなんだ。現実が曲がるしかなくなるほど、強く在ること」


シュウは書いた。


第四層:現実を定義できる存在と戦った。自分の存在で彼女の定義を上書きして勝利した。力ではない——存在感。


マヤはそれを読んだ。


うなずいた。


「いいよ。じゃあ——第五層」


マヤはしばらく黙っていた。


「第五層ね」彼女はようやく言った。「ここで大抵の人は混乱するの」


「なぜ?」


「第五層は一つの層じゃないから。無限の層。内部階層。自己増殖する深さ」


彼女はスマホを取り出した。シュウに図を見せた。複雑だった。意味のない方向を指す矢印。


「レオは第五層に入った。どんどん深く進んだ。第五層の内部の十七層——それが彼の限界だった。五十年前」


「そして今回は?」


「今回は——」マヤは微笑んだ。「——今回は十八層まで行ったの」


彼女はスマホを置いた。


「第五層の十八層。誰も到達したことがなかった。誰も見たことさえなかった。でもレオは——レオはそこに足を踏み入れた」


「どうやって?」


「シュウが彼の掌に『在る』と書いたから。そしてその『在る』が——」彼女は自分の胸をトントンと叩いた。「——その『在る』が十七層でレオに届いた。十分な密度を与えた。十分な理由を与えた。もう一歩進むための」


シュウは左手を見た。


在る


かすかに。しかしそこに。


「そしてそれが理由」マヤは言った。「レオがアウターバーサルである理由」


シュウは背もたれにもたれた。


「説明して。五歳の子供にするみたいに」


マヤは笑った。


「よし。じゃあ。アウターバーサルは次元の枠組みの外側に存在することを意味する。空間の彼方。時間の彼方。因果関係の彼方。概念の彼方」


「うん」


「第五層——内部階層——には次元がない。空間がない。時間がない。音さえない。覚えてる? 小説は明確に言ってる。音という概念はそこには存在しないって」


シュウはうなずいた。


「レオは存在の概念がまだ定義されている場所に存在した。ただ生き延びただけじゃない——彼は動いた。進んだ。より深く行くことを選んだ」


マヤは前に寄った。


「次元的存在にはできないこと。次元的存在が動くには次元が必要。レオは定義の層を通って動いた。それぞれの層は異なるルールの集合だった——そして彼はその全てに適応した」


「だから——」


「だから彼はアウターバーサル。次元の枠組みの外側で動作するから。彼の力は破壊についてじゃない——存在が不可能な場所に存在することについてだから」


シュウは書いた。


第五層:無限の内部階層に入った。誰も到達したことのない十八層に到達した。存在の概念がまだ定義されている場所に存在した。次元の枠組みの外側で動作する。


「完璧」マヤは言った。


「次はスクリーンショットが必要」マヤは言った。


「スクリーンショット?」


「小説の画像。証拠。証明」


彼女は再びスマホを取り出した。


「ほとんどは持ってる。でも足りないのは——」彼女はスクロールした。「——シュウが自分の掌に『在る』と書く場面。それとレオが『帰る場所がある』と言う場面。それと第四層の審判が変わる場面」


シュウは彼女のスマホを見た。


「小説のスクリーンショットを持ってるのか?」


「もちろん。どうやって議論を証明するの?」


彼女は彼に見せた。


ページの後ろのページ。白い砂漠。尖塔。薄く消えかけたレオの輪郭。第四層の審判の目。


シュウは自分の顔を見つめた。


マヤのスマホの中で。


彼はキャラクターだった。ピクセルの集合。画面上の言葉。


しかし彼はまたここに座っていた。コーヒーを飲みながら。友達が討論の準備をするのを手伝いながら。


その矛盾は彼を壊すはずだった。


しかしなぜか——


壊れなかった。


「これ」マヤは言った。「これ」


彼女はスクリーンショットを見せた。


レオ。第四層に立っている。審判の目が彼を取り囲んでいる。


キャプション:「帰る場所がある」


「それがそれだ」シュウは言った。


「でしょ。私のお気に入り」


彼らは夕方まで作業を続けた。


カフェは暗くなった。老女が灯りをつけた。夕食の客が来ては去っていった。


シュウの手は書いて痛かった。マヤの声は説明して嗄れていた。


「休憩が必要」マヤは言った。


「そうだな」


「何か食べよう」


「そうだな」


彼女は彼を見た。


「料理できる?」


シュウは考えた。


白い砂漠では、レンが料理をしていた。概念スープ。安定スープ。アイデアとして存在する食べ物。


その前——砂漠の前——シュウは一人暮らしをしていた。料理をしていた。簡単なもの。ご飯。卵。インスタントラーメン。


「できるよ」と彼は言った。


「証明して」


彼らはマヤのアパートへ行った。


それは狭かった。


一部屋。角にベッド。本と書類と空のエナジードリンクの缶で覆われた机。壁にはポスター——ほとんどがアニメキャラクター。フィギュアの棚。


「散らかってるんじゃないの」マヤは言った。「整理されてるの」


シュウは何も言わなかった。


キッチンは部屋の隅だった。小さなコンロ。小さな冷蔵庫。皿のある流し。


マヤは冷蔵庫を開けた。


「あるのは——卵。ご飯。野菜。肉も少し、かな。これまだ食べられる?」彼女は何かを嗅いだ。顔をしかめた。「ダメ。食べられない」


「卵とご飯でいいよ」


「卵とご飯ね」


シュウは手を洗った。


フライパンを見つけた。油を見つけた。コンロを見つけた。


マヤはベッドに座って見ていた。


「手伝わないの?」シュウは尋ねた。


「監督してるの」


彼はボウルに卵を割った。


殻が入った。彼は指でそれらを取り出した。


マヤは笑った。


「とてもプロフェッショナル」


「うるさい」


彼は卵をかき混ぜた。強くしすぎた。いくつかがカウンターに飛び散った。


「大丈夫」彼は言った。「大丈夫」


彼はフライパンに油を注いだ。


コンロの火をつけた。


油が熱くなった。


彼は卵を注いだ。


ジュージューという音がした。


良い。ジュージューは良い兆候だった。


それから——


彼は気を散らした。


マヤが討論について何かを話していた。相手について。予想される議論について。


シュウはうなずいた。


聞いた。


卵のことを忘れた。


煙は小さく始まった。一筋。ほとんど見えない。


それからそれは大きくなった。


「シュウ——」マヤが言った。


「聞こえてる」


「あなたの卵——」


「見えてる」


卵は黒かった。


茶色ではなかった。カリカリでもなかった。黒。火葬場に属する種類の黒。


シュウはコンロを消した。


フライパンを見つめた。


卵が見つめ返した。


目はなかった。しかしもしあったなら——彼を裁いているだろう。


マヤが歩いてきた。


フライパンを見た。


シュウを見た。


「料理できるって言ったじゃん」


「できるんだ」


「これは料理じゃない」


「これは——」シュウは言葉を探した。「——これは高度な炭化だ」


マヤは彼を見つめた。


それから——彼女は笑った。


小さな笑いではなかった。上品な笑いでもなかった。


大きな笑い。腹の底から来て、全身を揺らす種類の。


彼女は笑いすぎてカウンターにつかまらなければならなかった。


彼女の顔は赤くなった。


彼女の目に涙が浮かんだ。


シュウは彼女を見た。


彼の顔は熱かった。恥ずかしかった。


しかし——彼は我慢できなかった。


彼も笑い始めた。


彼らは小さなキッチンに、小さなアパートに、ポスターとフィギュアと空のエナジードリンクの缶に囲まれて立っていた——焦げた卵で笑っている。


「ごめん」マヤは息を切らして言った。「ごめん。笑っちゃダメだよね。あなたは頑張ったのに」


「笑い事じゃない」


「超笑い事だよ」


シュウはもう一度フライパンを見た。


卵は救いようがなかった。


彼はため息をついた。


「ピザ頼む?」


「ピザ頼もう」



ピザが到着した。


彼らはマヤのベッドで食べた。あぐらをかいて。箱を行ったり来たり回しながら。


討論のノートは彼らの周りに散らばっていた。スクリーンショットと手書きの議論。


シュウはマヤを見た。


彼女は噛んでいた。考えていた。彼女のスマホは彼女の膝の上にあり、通知がまだ殺到していた。


「ねえ、マヤ」


「うん?」


「ありがとう」


「何のために?」


「だって——」彼は漠然とジェスチャーをした。「——これ。手伝ってくれて。説明してくれて。それに——」彼は焦げたフライパンを指さした。「——キッチンをめちゃくちゃにした後、追い出さなかったこと」


マヤは微笑んだ。


「あなたは変だよ、シュウ」


「知ってる」


「でもいい意味で変」


「それって褒め言葉?」


「宣言ね」


彼女はもう一枚ピザを取った。


シュウは壁にもたれかかった。


アパートは暖かかった。ピザは美味しかった。マヤは彼の隣で、次元階層付けについて誰かとスマホで議論していた。


普通。


日常。


本物。


初めて——シュウはどこかに属していると感じた。


物語の中ではなかった。


宇宙論の中でもなかった。


ただ——ここに。


彼女と共に。


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