75 恋人の真似事
宿を出たシャンテルたちは街の中心部に向かって歩いていた。
シャンテルの隣をエドマンドが、その少し後ろをカールとサリー、クレイグが付いてくる。
宿での出来事から少し時間も経って、場の空気も軽くなってきていた。
一般的なお嬢様やご令嬢であれば、街で買い物をしたがるのかもしれないが、シャンテルは物欲がそれほどない。折角なのでエドマンドの行きたいところに合わせようと、シャンテルは口を開く。
「エドマンド皇子は、どこか行きたいところはありますか?」
「いや? シャンテル王女がこの外出を決めたんだ。視察中、ジョセフ公子と出掛けた以外、自由時間はずっと部屋に閉じ籠って報告書を書いていただろう。俺のことは気にせず、シャンテル王女の行きたい場所に行けばいい」
どうやら宿に籠っていたことが裏目に出たようだ。それを聞いて、宿を出てから店が並んでいる通りを目指していたシャンテルは歩みを止めた。
エドマンドも立ち止まって、不思議そうにシャンテルを見る。
「どうした?」
「その……」
歯切れの悪いシャンテルは目を伏せて、エドマンドから視線をそらす。
「私が出掛けると言えば、エドマンド皇子も外出できるとサリーに言われて、この外出を決めました。エドマンド皇子を宿に閉じ込めておくのは気が引けて侍女の案に乗ったのです」
「……つまり、シャンテル王女は俺に気を遣ったということか?」
顎に手を当てたエドマンドが、少し間を置いてそう尋ねた。シャンテルが「そうです」と頷くと、彼が「ははっ」と可笑しそうに笑う。
「っ!」
シャンテルが視線を上げると、視界に飛び込んできたのは、普段殆ど見ることがない彼の思いがけず溢れた満面の笑顔だった。
それは、シャンテルが今まで見てきた中で一番自然な笑顔のエドマンドだった。
エドマンド皇子もこんな風に笑うのね。
そう思った瞬間、シャンテルの胸がドキッと高鳴る。
「……? …………??」
今のは、何かしら?
自分の感情に困惑していると、エドマンドがシャンテルの手を掬って口付けた。
「なっ、エドマンド皇子!?」
外で手の甲に口付けられて、シャンテルは恥ずかしさが込み上げる。だがそんなことはお構いなしに、シャンテルの唇にエドマンドの人差し指が乗せられた。そして、彼がシャンテルの耳元に顔を近付ける。
「んむっ!?」
「ここは街中だ。大きな声で『皇子』と呼ぶのはやめた方がいい」
小声で指摘されたことにハッとして、シャンテルはコクコクと首を縦に振る。それを見届けたエドマンドの人差し指がシャンテルの唇から離された。
「エドと呼んでくれ。俺もシャンテルと呼び捨てで呼ばせてもらおう。街にいる間、俺たちは恋人同士だ」
そう言うと、エドマンドはシャンテルの手を絡め取って恋人繋ぎで握ってくる。ただ手を握られているだけのはずなのに、シャンテルはぶわっと顔が熱くなった。
「っ! えぇっ!? エドマッ、エ、エド!? 私たちは今、お嬢様とその従者ですよね!?」
「大丈夫だ。こうして手を繋げば、恋人同士にしか見えない。それに、俺に付き合ってくれるつもりだったのだろう? そのために気遣って外出したと先ほどシャンテルが言っただろう?」
シャンテルは返す言葉が見つからず、「うぅっ」と唸る。その間にもシャンテルの頬はみるみる熱を帯びて赤くなっていく。
そんな彼女の様子にエドマンドの口元は自然と緩んでいた。
シャンテルたちと少し離れた場所では、カールがエドマンドを止めに入ろうとしていた。だが、それをサリーとクレイグが止める。
サリーはシャンテルたちを応援するために。クレイグはあとでエドマンドから「シャンテル王女との時間の邪魔をさせるな」と怒られないために取った行動だった。
「では、シャンテルが喜びそうな店を探しに行こうか」
上機嫌なエドマンドに連れられて、シャンテルは歩き始めた。
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次回の更新で3章は最終話です。




