73 外出させたい
その後、出発予定時刻に集まったシャンテルたちは再び帰路を目指し、宿泊予定の宿がある街へ向かった。
パン屋で買ったスコーンをサリーに渡すと、彼女はとても喜んでくれた。
一行はまだ陽が高いうちから宿に到着した。
同行人数が多かったにも拘らず、予定通りに視察を進行することができて、シャンテルはほっとする。
今日の残り時間は護衛に付いている一部の騎士を除いて、自由時間となる。
視察業務から解放された官僚と一部の騎士はこの時間を利用して酒を飲みに行ったり、買い物をしたり、近くを観光したりと各々好きな時間を過ごすことだろう。ジョアンヌもさっそく出掛ける予定を立てているようで、侍女と第三騎士団の騎士に何か指示していた。
今回の視察は同行人数が多かった割に、予定通り進行することができた。それもこれも、婚約者候補である国賓たちが、指示に従ってくれたからだ。
この貴重な時間に視察の報告書の残りも仕上げてしまおうと考えたシャンテルは、宿の自室へ向かう。
「エドマンド皇子、私はこれから部屋に籠るので、あとの護衛はカールに一任します。本日はこれまでで結構ですから、どうぞ自由にお過ごしください」
部屋に入る前、シャンテルはそう伝えた。
「いや、護衛騎士の仕事を途中で放り投げるつもりはない。俺のことは、気にしなくて大丈夫だ」
そう言って、彼は頑なに首を横に振った。
少し後ろ髪を引かれる思いで、部屋の中に入ったシャンテルは机に向かってペンを片手に報告書と向き合う。だけど、頭を過るのは部屋の外にいるエドマンドのことと、部屋に留まっているもう一人の存在だった。
「サリーも出掛けていいのよ?」
「いえ。私は姫様の身の回りのお世話をするのが仕事ですので」
サリーが即座にそう答えた。何故か、シャンテルの周りは頑固者が多いらしい。
「エドマンド皇子もサリーもせっかく時間ができたのに出掛けたがらないなんて」
シャンテルはこれまでの視察中にまとめていたメモを開いて、前回記載した報告書の続きに文字を綴っていく。
「それは姫様もです。せっかく城の外にいるのですから、少し観光されてはいかがですか?」
「私は、この前ジョセフ公子とお出掛けしたわ。だから、今日は報告書を進めたいの」
只でさえ、城に帰れば仕事が溜まっている。時間があるのなら、少しでも減らしておきたいところだ。
「姫様が外出なされば、エドマンド皇子も護衛騎士として姫様に付いて、外出できると思いますよ」
「……」
言われてみればそうね……。と、納得してしまう。
エドマンド皇子は変なところで真面目だ。だから、一度やると決めた彼はそうでもしないと外に連れ出せないことをここ数日のやり取りで、シャンテルも分かっていた。
「国賓の方をこんな形で宿に閉じ込めてよろしいのですか?」
サリーの追撃にシャンテルは「うっ」と言葉を詰まらせる。
「……分かったわ。私が出掛ければエドマンド皇子もサリーも外出できるなら、そうするわ」
ようやく出掛ける気になった主に、サリーは内心歓喜した。これでシャンテルをエドマンドと一緒に出掛けさせることができると、グッと勝利の拳を握りしめて、早速動き出す。
「ではすぐ支度しましょう」
この外出でお二人の距離が縮まるように精一杯サポートしなくては! と使命感に駆られたサリーは、早速扉の前にいるエドマンドとカールに支度が整い次第、出掛ける旨を話した。
こうして、シャンテルはサリーに手伝ってもらって、旅人の装いから普段公務中に着用している動きやすい服装に着替えた。何かあったとき用にサリーが用意してくれていたらしい。
それから、簡単に髪型を整えたシャンテルは部屋を出た。




