72 シャンテルを悩ませるもの
店主にパンのお礼を告げて、シャンテルたちは歩き始めた。せっかく買った焼きたてパンはカールと半分に分けた。スコーンは馬車で待っているサリーへのお土産にするつもりだ。
シャンテルは焼きたてパンを一口齧る。
温かくてふわふわの生地が口いっぱいに広がった。
「ん、美味しい!」
「普段食べるパンよりふわふわですね」
カールの言葉に「えぇ」と頷いたシャンテルは、もう一口齧った。
普段、焼きたてパンを食べることがないシャンテルは、至福の味を堪能する。そうして二口目を食べながら、頭はこの街の税が倍になった理由を考えていた。
ルベリオ王国はここ数年、国防費を確保するため、税金の引き上げを検討するよう領主たちに働きかけている。そのため、税金が上がること自体は不思議ではない。だけど、税金が倍になったことは引っ掛かる。
昨日ジョセフ様と出掛けた花畑周辺のお店の値段は、そこまで気にならなかった。
花畑からこの街まで距離はあるが、隣り合った領地だ。それに、物価は都市部の方が高くなる傾向にある。運搬費やら諸々の仲介費がかかるからだ。
だが、税金が倍になったことが影響して、セレナルドやタールムの街の方が、王都周辺よりも割高になっていた。
同じ領地内でも都市部と農村地域で物の値段に多少の差はあるだろう。だが王都から離れた街でこれほど値が張るのは異常だ。
王城に帰ったら、各領主の税収報告を確認しなければいけないわね。
ルベリオ王国では領地税収の何割かを領主が納める仕組みになっていて、納められた税が国費になる。だから税収が増えれば、報告の収入金額も増加し、その分国費も増えるはずだ。
シャンテルがパンを咀嚼しながら、今後の対応を考えていると、「難しい顔をしているな」と、聞き覚えのある声がした。
振り向けば、通りの右側からエドマンドがこちらに歩いてきた。どうやら、たまたま近くにいたようだ。何故かその後ろにはアルツールの姿がある。
仲が悪いはずの二人が一緒にいる姿を最近よく見るようになった。だけど、二人で街を見て回っていたとは驚きだった。
「お二人とも一緒だったのですね」
そういってから、シャンテルは最後の一口を口の中に入れた。
「たまたまだと、言いたいところだが、ギルシアの王太子は最近俺の後を付いて回るのが、好きならしい」
やれやれ、困ったものです。と、わざとらしく付け足したエドマンドにアルツールが「おい」と、不機嫌な顔で声を低くした。
「気色悪いこと言うな。アルツール皇子が抜け駆けしないように見張っているだけだ」
「でしたら、ジョセフ公子を見張っては? 最近は彼の方がよっぽど抜け駆けしていると思いますよ」
「その猫かぶり、そろそろやめたらどうだ」
バチバチと見えない火花を散らす二人の会話にシャンテルは苦笑いになる。
「ところで、シャンテル王女は何か気になることでも?」
アルツールの睨みを無視してエドマンドがシャンテルへと振り向いた。
「えっ? えぇ、少し……」
唐突な質問に一瞬どう答えるか迷ったシャンテルだったが、エドマンドに誤魔化しは効かないと観念して、濁して答える。
「なんだ。エドマンド皇子は気付かなかったのか? デリア帝国も第二皇子殿は呑気だな」
どこか勝ち誇ったようなアルツールがふっと笑ってエドマンドを挑発する。
ギルシア王国の王太子として公務をこなすアルツールは、この街を歩いて今までの街との違いを感じたのかもしれない。
もしかして、ルベリオ王国の財政状況がバレてしまったかしら?
そんな不安がシャンテルの頭を掠める。
「この地域が周辺の地域と比べて価格に大きな差が出ていることぐらい俺も分かっている。恐らく、領主が領民から徴収する税を上げたのだろう。問題は何故地方でこれほど上がっているかだろう」
そう。国が指示しているとはいえ、倍額はやり過ぎている。流石に国民の生活に影響が出すぎていて良くない。そして、この事が国に報告されているのかも気になるところだわ。だけど、その前に……
「お二人とも、そこまでにしてください」
察しが良すぎる二人に警戒心が膨らむ。もう今更かもしれないが、これ以上二人にこの国の財政をひけらかすわけにはいかない。
あと、国防費が嵩んでいる原因は、ギルシア王国が小競り合いを仕掛けてくるのが悪い。
シャンテルは恨めしい視線をアルツールに送った。
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ここ暫く不安定な更新頻度となっていますが、あと数話で3章は終了すると思います。その後、4章の前に少しお休みをいただく予定です。
それまではなんとか週二更新を維持したいと、考えています。
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