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はじめまして、君の名前は?  作者: 井上魚煮
第二章 とりあえず握手でもどうかな
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「“どうやって”とは聞きましたが、“どうして”を聞いていません」

「『どうして王宮語“で”話しかけたのか』? そりゃ見るからにお貴族様で、普通に話しかけても何の反応もなかったから、『ああこれはここの言葉を知らない人なんだろうな』と思ったからだよ」

「違います。どうして王宮語“を”話せるのですか?」

「さあね」


 肩を竦め、首を横に振る動作に苛立ちを覚える。

 イライラしているのに気付いたのだろうか、アレクはアシュレイの顔を見ると慌てて言い募った。


「僕も知らないんだって! よく覚えてないんだ!」

「覚えてない……?」

「わかんないけど、町医者には『ご両親を亡くしたショックで記憶が途切れてしまってるのでしょう』って言われた」


 そういえば、資料に記憶を失くしたという表記があったことを思い出す。だが、それすらも不自然だ。まるで誰かが、彼の異常さに気付いてもわからないようにしているようだ。

 両親はいない、記憶もない。

 サリクタ出身ではないことは確かだが、それが何処なのかすらもわからない。


「……本当に、覚えていないのですね?」

「覚えてないって。逆に僕だって聞きたいよ、本当の僕は何処から来たのか、他に家族や親戚はいるのかってさ」


 5才になれば、神殿へと出向いて性別を決めるのは市井であっても同じだ。ただ、各々の誕生日に出向く貴族とは違い、市井の子供は1月末と5月末のどちらかの日に纏めて神託を受ける。

 貴族の神の子の誕生日は神殿が正式に管理記録しているが、市井の神の子はそうではない。誕生届けを出すのを忘れていたり、適当な誕生日であったりと、貴族と違いその管理は甘いのだ。記録の重要性が理解されていないのと、わざわざ届けを出す利点がないことが理由として挙げられる。なので出生記録で探ろうとしても、当たりを引き当てることはほぼ不可能に等しい。

 もし、王都出身であれば王宮語を話せるのも頷ける。親が貴族と関わることのある商売をしていたのならば、市井の人間でも綺麗な発音ができるのだ。

 一番有り得るのはこれだろう。しかし、それは違うのではないかとアシュレイは思う。


(そうであるなら、影が既にそれを掴んでいる筈ですし……)


 殿下の一度目のお忍びから考えると、あれから35日が経っている。にも関わらず、未だ新しい情報が上がってこない。

 陛下の影には劣るが、それでも優秀な影を賜っている。それでも上がってこないとなれば、陛下の影に頼るしかないが──こんなことで煩わせてしまうのも気が引けるのだ。


「どう、疑問は解決した? っていうか、これ以上聞かれてもちゃんと答えられるとは思えないんだけど」

「いいえ、疑問は解決していません……ただ、こうではないかという考えはほぼ確信に変わりつつあります」

「へえ? どんな考え?」


 ぱっと顔を輝かせ、こちらを見詰めるこの眼差しに一切の引け目は見られない。本当に記憶がないのか、それとも……。

 どちらにせよ、これの身元がハッキリしない内は殿下をニル・サリクタの町に行かせることはできないとアシュレイは考える。別に安全は保証している為行かせてもいいのだが、殿下のことだ。こっそりとこれに会いに行ってしまうだろう。

 転移陣の行先をミン・ズィニフの町に変えるのもいいかもしれない。しかし、またその行先で殿下に悪影響を及ぼす存在と関わってしまったのなら変える意味はない。

 アシュレイは「いえ、確定ではないので」と言いつつ緩く首を振った。カマをかけることはできるが、それは相手が貴族であれば使える手段だ。市井の人間に貴族の腹の探り合いの芸当ができるとは思えない。もしかしたら出来るかもしれないが、今口にすべきことではなかった。


「私はこれで戻ります」

「あ、話終わったの? じゃあ帰ろうか」

「いえ、ここで、」

「帰り道わかるの?」


 キョトンと嫌味なく首を傾げるアレク。純粋な心配が、酷く心に刺さる。


「……いえ」

「じゃあわかる所までは送るよ。送らせて」

「……」


 言うが早いか、アレクはさっと立ち上がると、私が休憩の際に置いていたハンカチを取ってこちらに差し出した。無言で受け取ろうと手を出したが、少し考えその手を下ろす。


「? これあなたのでしょ?」

「差し上げます。話を聞かせてもらった礼としては足りないでしょうが、売ればそこそこの金になる筈です」

「えっ、別に要らないって。あ、というか前置いてったルドの服、あれってあなたのなんでしょ? 持って帰ってくれない? 下手に綺麗だから置き場所困るんだよね」


 綺麗? あれが? ……確かに、目の前の彼と比べると、殿下に貸した『市井の服』は綺麗かもしれない。


「いえ、あれは差し上げたものです」

「いやいや持って帰ってよ」

「嫌です」

「僕も嫌だ」


 持って帰れ、嫌ですの問答を何度も繰り返している内に、気付けば町の門の前にいた。帰りは終着点がわかっている分、気分的にも近く感じる。

 そうしてまだ文句を垂れ流している彼と別れ、城へと戻った。調査の追加の報告は、まだ届いていなかった。



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誤字、脱字などありましたらご報告くだされば有難いです……なるべく無いように頑張ってるんですけど、それでもあるので……(´-`)
(わざわざご報告いただき本当にありがとうございます……!お手数おかけします……!)
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