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特殊スキル「美」を持つ令息は、道端の石になりたい。  作者: をち。


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9/17

俺の変化

 夢と希望など高等部にはないと理解して数か月。

 紆余曲折を経て、俺は変わった。



 世間の荒波、いや、俺にとって甘々な世間にさらされ続け、俺はすっかりやさぐれていた。

 初々しい俺はもう居ない。

 今いるのは「世界に期待するのをやめ、自ら希望を作り出すことにしたニュー俺」なのだ。

 昔は誘拐されたり、懸想されたりと色々心配があった。だが、俺も17歳だ。子供ではない。学園で世間(せちがらさ)についても学び、それなりの知恵も回避術も身につけたのだ。

 

 そう。俺は逃げ回るのをやめた。

 どうしたって俺の顔は良いし、この美はついて回る。

 一生人の好意を避けていては人生を楽しめない。どうせなのだ、使えるものは使ってやればいい。

 信者ができようとできまいと、知らん。俺は好きにするのだ。


 

 俺は、これまで避けていた俺の信者に対する接し方を変えた。

 ゾロゾロと着いてくるのが嫌で逃げ回っていたのだが、それをやめ、彼らに向かって軽く微笑み手を振ってやることにしたのだ。

 そうすればみんな固まって動かなくなるから、それからゆっくりと歩を進めればいい。

 発想の転換というやつだ。

 愛想を振りまいて回る必要はないが、愛想を悪くする必要もない。そのことに気付いたのだ。

 生徒たちも、俺に無体を働こうとはしないし、高位貴族の生徒が他の下位貴族の子弟たちに対して牽制を利かせ統制してくれてもいる。その統率力に関しては信頼できる。

 彼に「ウィリアム公認」の権限を与えて、俺とファンの窓口になって貰うことにした。

 そのお礼がわりに、週に一度、彼を俺たちのランチに招待。これで貸し借り無しだ。


 俺の接し方が変わると、クラスメートの態度も変わってきた。

 程々の接触が得られることで、ある種の節制が出来てきたのである。

 こそこそと俺を見つめたり付け回したりするのをやめ、あくまでもクラスメートとしての短い会話、瞬間の邂逅を楽しみにしてくれるようになった。


「おはようございます、ウィリアム様」

「おはよう」

「今日もお美しいですね」

「そうかな? カッコいいと思われる方が嬉しいんだがなあ……」

「か、カッコいいです! 俊敏な身のこなしに憧れます!」

「あはは! ありがとう!」

 

 ほんの一言二言のやりとりなのだが、神のように崇められるよりよほどいい。

 


 貢物が下駄箱や机から溢れることも無くなった。これを周知したおかげだ。


●朝と帰りの十分間が貢物タイム。この時間に市販のクッキーやチョコ、茶葉などのみ手渡し可能。

●連絡先を記載しておけば、毎月月末に俺からの返礼品がメルによって配布される。

●食べきれない貢物に関しては教会に寄付するので、それを前提に選ぶようにする。


 これのおかげで貢物タイム以外に対応する必要がなくなり、格段に過ごしやすくなった。


「ウィリアム様! これ、私のおススメのお菓子なのです。召し上がってみてくださいな」

「これ、新しくオープンした店のものだろう? 食べてみたかったんだ。ありがとう」

「ふふふ。実はうちの商会で手掛けた店なのです。美味しかったら宣伝してくださいませ」

「ああ。任せてくれ!」


 コッソリと忍ばせられるより、こうやって手渡しで渡してくれて、下心をはっきりと口にしてくれる方がよほど気持ちがいい。

 出所が分からない食べ物は口にできないが(メルが許してくれない)、こうして出所がはっきりしていれば口にすることもできる。甘いものは大好きだから、大歓迎だ。

 もらいっぱなしも良くないので、俺もメルに頼んで何かしらのお返しをしている。焼き菓子とかショコラとか。何種類か用意し、その中から選んでもらうようにするのがポイントだ。(残るようなものはいけない。前に気が向いてやった置物のひとつがオークションにかけられていたことがあるからな)

 寄付する許可も得ているから、無理に食べようと頑張って腹を壊すことも無くなり、毎日帰ってからメルが使用人に配り歩いたりする必要もなくなった。教会の子供たちもうまい菓子を食べることができる。俺も助かり、みんなも喜ぶウィンウィンの解決法だ。




「最初からこうしたらよかった」


 机にだらしなく伏せる俺の頭をアイスが撫でる。


「うーん。怖がりのウサギのように私の背に隠れるウィルも可愛かったのだけれどね?」

「言ってろ。メルはどうだ?  お前の余計な仕事はかなり減ったはずだぞ?」

「ですねえ。なにしろ、量が量ですし、それに毎日ですからね。時間を区切ったのは素晴らしい慧眼です、と言っておきましょう」

「はは! 俺もそう思う!」

「いや、そこでもっといい物を貢がせようとか、人を自分の利に叶うよう動かそうというのではないのが、ウィルだよね」


 言いながらアイスの目がキラリと光ったような気がした。

 気のせいか?


「はあ? 親しくもない奴から高額の物など受け取れないに決まっているだろう? それに、欲しいものは自分の力で手に入れる。小遣いだって使い道もなくずっと貯めてある。それなりに金は持ってるぞ?」

「ふは! 確かに! でもね、人の欲には際限がないからね。もっと宝石が欲しいとか、新しい衣装が、権力が、とね。欲望には限りがないんだよ。私の周りには欲に満ちた輩が多いから分かるんだ。でも、ウィルにはそれが無い」


 確かに俺も大変だが王族(アイス)も俺とは別の意味で大変そうだ。媚びを売って何かしらのおこぼれを貰おうとするような、欲に満ちた輩が多いのだろう。

 別に、俺にだって欲はあるぞ? 衣装も宝石も必要ないだけで。


「俺は美しい。宝石なんて付けなくとも問題はないし、衣装だって着られればいい。どんなものだって着こなせるからな」


 しれっと返してやると、メルが急にスンとした表情になった。


「ウィル様ってそういうところがありますよね。スキルを嫌っている割に自分の顔に自信があるというか……」 

「事実だからな。誰が見ても美しいのに、それを卑下する方が嫌味だろう? あと、スキルを嫌っているからって、俺の美そのものを否定しているわけじゃない。この顔はスキルじゃなくて生まれつきだ」


 当たり前のことを当たり前に言っただけなのに、アイスに妙に感心されてしまった。


「この数か月で強くなったな、ウィル。諦めた顔をしているより、よほどいい。成長したな」


 目を細めながらポンポンと俺の頭を撫でるアイス。

 「お前は俺の保護者か」と言いたくなったが、心の底から安堵したような表情に何も言えなくなってしまった。

 俺は思っていた以上にアイスに心配をかけていたようだ。


 一方、メルはやっぱりメルだった。


「すっかり開き直りましたね。でも、その方が私は楽なので、助かります。いつもそうだといいのですが」

 

 おい、メル! 俺のことを手のかかるペットかなにかだと思っていやしないか? 

 俺に忖度しないところがメルのいいところなのだが、もう少しこう、さあ!

 まあいいさ。こんな奴だからこそ、俺も気を抜いていられるのだから。




 こんな感じなら、学園でもなんとかやっていけそうだ。

 このままクラスメートや仲間とちょうどいい距離感を維持していこう。

 ……数年もすれば俺に慣れて「友人のひとり」として扱ってくれる生徒もいるかもしれない。それに賭けるのだ。

読んでくださいましてありがとうございます♡

少しでもいいねと思っていただけましたら、ぜひ☆をポチっと……|ω・)チラリ


作者のモチベーションが爆上がりして踊り狂います。



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