ふざけるなよ、女神。俺の平凡な人生を返せ!
そもそも、俺は別にアイスが嫌いな訳じゃない。むしろ、無二の親友で悪友だと思っている。いや、思っていた。
正直に言えば、俺が気兼ねなく付き合えるのは、美の感覚が一般的じゃないメルと、赤子の頃から共に居るアイスとレオ兄、そして鉄壁の理性を持つアイスの側近、ハロルド(ルド)とメンフィス(フィス)くらいなのだ。
なぜなら、男女問わず大抵の奴は俺を見ると頬を赤らめ挙動不審になるし、友人ができるかもと期待していた学園ですら、「少しでもウィリアム様の目に留まりたい」と目をギラギラさせた生徒ばかりだったのだ。友達どころではない。
一見普通の態度に見えたクラスメイトも、入学初日「おはよう」と肩を叩いただけで鼻血を出した。
俺の心のドアは爆速で閉まった。友人? こいつらと? 怖すぎて無理!
そんな俺にとって唯一ともいえる親友がアイスなのだ。
なのに婚約? 冗談じゃない。
そもそも、アイスをそんな目で見たことなどないし、俺にとっては友人>婚約者だ。俺に恋情を抱くヤツなど掃いて捨てるほどいる。友人で居てくれるヤツの方が貴重なのに!
婚約なんかで貴重な親友を失ってたまるか!
それは一方的な俺の事情だろうって?
ならば教えてやろう。俺がなぜここまでアイスと親友で居ることにこだわるのかを。
まずは俺のこれまでの話を聞いて欲しい。
何度も言っているように、いくら神に愛された至高の美を持っていようと、俺の中身はごくごく普通の男。
むしろ普通をなにより愛する地味な男だといっていい。キラキラした生活よりも、穏やかな暮らしを好んでいるのである。平凡万歳! 普通であることこそ正義!
なのに俺のこの顔は俺に自由をくれなかった。容赦なく俺の幸せを限定してきた。
貴族学園は初等部、中等部、高等部に分かれており、10歳から12歳が初等部、13歳から15歳が中等部、16歳から18歳までが高等部となっている。そのうち初等部と中等部は任意で家庭教師に学んでも可とされており、高等部だけが義務となっている。だが、大半の貴族は人脈づくりもかねて初等部から貴族学校に通う。
しかし俺は「特殊スキル美」なんてものを授かってしまった。
俺を外に出すのを懸念した両親は、初等部、中等部に通わせることを諦め、家庭教師を雇った。それも酸いも甘いも噛み分けたような老齢の教師を。
体術や剣術は王城でアイスたちと共に騎士団長である父から習い、休日の出かけ先は王城と教会のみ。
つまり、俺は16歳で高等部に入るまで、まるで籠の鳥のような生活を余儀なくされていたのだ。
幸い公爵家の敷地は広く、小さな池や丘もあったから遊び場には困らなかった。王城は言わずもがな。大きな図書室もあり、いくつもの庭園もあって……以下同文である。
でも、俺はもっと色々な所に行ってみたかったし、色々なことをしてみたかった。鳥籠がいくつあろうと、それがどんなに大きな鳥籠だろうと、鳥籠は鳥籠。閉じ込められていることに変わりはない。
俺は大司教の要請により毎月一度教会に通わされていた。
特殊スキル持ちの義務のようなものだ。何をするというわけではないのだが、愛おし子である俺が教会に通うことで女神が喜び、その結果国が豊かになるらしい。
眉唾なのだが、家を出る数少ない機会でもあったから、俺は大人しく教会に通っていた。
教会に通うときには、馬車で街を通る。その時に目にする街に、俺は憧れた。
街には色々な出店が出ている。色々な人が道を行きかい、笑いあったりしていた。
俺も彼らのようにふらっと買い物をしてみたかったし、知らない子とも遊んでみたかった。色々な人と笑いあったり話をしたりしてみたかった。
でも一度もそれが許されることはなかった。馬車は家と教会、家と王城を往復するだけ。俺にできたのは、せいぜい馬車の窓から外を見て、目が合った街の人たちに手を振ったり挨拶したりすることくらいだった。
どうして俺はみんなみたいにできないんだ。どうして俺はこんな顔に生まれてしまったんだ?! せめてスキルが「体術」とか「剣術」とかだったら……!
そんな風に思うこともあった。いや、正直に言おう。今でもそう思っている。
だけど分かっていた。両親や家人の心配ももっともなのだ。なにしろ俺には心配されるだけの理由があるのだから。
俺のこの顔はそうでなくとも多くの人を魅了してしまう。
おまけに洗礼式のおかげで「120年ぶりに特殊スキルが与えられた。特殊スキルの名は『美』」だということが世間に広まってしまった。つまり、この美貌が「120年ぶりの特殊スキル持ち」とイコールになってしまっているのだ。
見た目で分からない特殊スキルなら誤魔化しようもあるが、俺の美はごまかせない。「俺=幸運」とばかりに人が集まってしまえば、数人の護衛だけでは対処するのは難しい。
それでなくとも他国でも通用する「特殊スキル」。人さらいには俺は格好の獲物なのだ。警護すらままならない状況となってしまうのはいくらなんでもダメだ。それくらいは俺にも分かる。
両親が警戒するのも仕方のない話なのだ。
ならば俺がもっと強くなって自分で自分の身を守れるようになれば、もう少し自由になれるのではないか。そう思って必死に身体を鍛え、剣術を磨いた。
だが、「個では強くとも、多勢に無勢という言葉があるのだ」と、行動制限はされたままだった。
年齢が上がればもう少し自由になれるのではないかとも思った。
それでも大勢の護衛を引き連れたアイスたちと共に出ることを許されたくらいだった。
俺も家族も、この美貌に手をこまねいていたわけではない。何とか隠せないかと色々試しはしたのだ。
野暮ったい黒ぶち眼鏡をはめてみたこともある。だが「黒ぶち眼鏡がコケティッシュなオシャレな美形」が爆誕してしまったのでやめた。
前髪を伸ばして顔を隠してみたこともある。だが無駄に「アンニュイな美形」を産み出しただけに終わった。
女神の「スキル美」のせいだろうか。何をしても俺の美のほうが勝ってしまうのだ。俺のこの類まれな美貌が変な衣装すらいい感じに見せてしまうのである。
ふざけるなよ、女神。スキルのせいで俺の美貌が必要以上に爆上がりしているじゃないか! 俺の平凡な人生を返せ!
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