俺は路傍の石になりたい
とまあ、つらつらと語ってきたが、ここで話は冒頭に戻るわけだ。
「なあ、メル。どうしてこうなった? 俺は、平凡で欲もなく決して怒らずいつも静かに笑っている、そんな路傍の石みたいに誰もが気に留めない普通の男になりたかったのに!」
行儀悪くベッドに寝転がって、うだうだとメルに愚痴る俺。
情けない。でも、愚痴でも零さなきゃやっていられない気持ちなのだ。
「すれ違っても二度見されることもなく、俺の世話を誰がするかで争いが起こることもなく、男に告白されることもない平凡な男になりたい。毎回会うたびに顔を忘れられて『はじめまして』って言われるような平凡な男になって、穏やかで優しい嫁をもらって公爵家にこもってひたすら書類を整理するような、そんな穏やかで心安らぐ一生を送りたかったんだ」
「そうか」
「なのになんだよこれ!」
俺は手にした蜜蝋付きの封筒に入った手紙―王命をばっさばっさと振って見せた。
「皇太子の婚約者になれ? 男同士でも婚姻可能なように法を変えた? バカか? バカなのか? 誰が頼んだ、そんなこと!」
「そりゃ陛下か皇太子だろ。お前の親友の」
しれっと口にしたメルをギロリと睨む。
「……もう親友じゃない。あいつは俺の信頼を裏切った。今からあいつは俺のストーカーだ」
唇を尖らせて宣言する俺を、メルが真面目ぶって戒めてきた。
「ウィル様、不敬ですよ?」
「これまで不敬しかないお前が今さらいい側近ぶるなよ」
思わず顔をしかめる俺。
メルはそんな俺に頓着せず「ずっといい側近でしょう、私は」と俺の寝転がるベッドの端にドカリと腰を下ろした。主人のベッドに堂々と腰かけるなんぞ、十分不敬だろうが。
ベッドパッドがギシッと音を立ててたわみ、俺の身体が必然的にメルの方に寄りかかる。
寄りかかりついでにメルの背にぐりぐりと額を押し付けてやった。
おい、慰めろよ。それがお前の役目だろ。
ふ、とメルが笑う気配。いい側近のふりはやめたらしい。
「お前が外で愛嬌を振りまいて聖人君子ぶっているからだろうが。全て自業自得だな。頭脳明晰、成績優秀、スポーツ万能。スタイルも良くておまけに顔がいい。男でも子供が産める薬ができた今となっては、性別なんぞささいなことなんだろうよ。オマケに『特殊スキル美』だぞ? どう考えても路傍の石なんて無理だ。諦めろ。そもそも陛下は元からお前に好意的なんだ。お前は最初から詰んでいる。それに、過去の特殊スキル持ちのほとんどが王族に縁づいているだろうが。120年ぶりだぞ? 野放しにはできないだろう。繰り返す。法まで変えてくるくらいなんだぞ? 奴らは本気だ。諦めろ。どのみちこうなっていた。お前にずっと王家の影が付けられていたことに気付いていただろう? そのおかげでお前は今まで無事だったんだ」
ちくしょう! 気付いてたさ! 王家の影が俺を守っていたからこそ、これまで何事もなくやってこられた。
だからって俺に何が出来た?
影を拒否して有象無象に襲われてたら良かったって言うのかよ!
「ううー、いらねえ……スキルいらねえ……」
枕に顔を埋めてジタバタとあがく俺。メルが宥めるように俺の背をポンポンと叩いた。
おい、俺は子供か? 寝かしつけようとするんじゃない!
「そんなに嫌なら、今みたいに駄々をこねてみせたらどうだ? 五歳のときの洗礼式みたいに。俺も見ていたが、あれはなかなかの見ものだった。そこで平然としていたおかげで奥様に目をつけられたんだが……。まあそれはそれとして、やってみる価値はあるぞ? 大の大人が子供みたいに足をバタバタしてみせれば、100年の恋だって覚めるだろう」
「はあ? 俺だぞ? 俺がそんなことをしても可愛いだけだろうが。俺の美貌を舐めるな」
すごい。一瞬でメルの顔がスンとなった。
「嫌がるくせにその絶対的な顔に対する自信はなんなんだ?」
「いや、だって事実だろう。俺の近くにいて俺に惚れないでいられるのは、美醜の感覚が逆転した個性的な趣味のお前くらいだもん。今まではアイスもここに入れていたんだが……これだしなあ……」
これ、とクシャクシャになった王命を掲げて見せる。
「失礼な! 俺にだって美醜の感覚はある! 単に咲き誇る薔薇よりも道端で健気に咲く小さき可憐な花が好きだというだけだ」
「地味な女が好きってだけだろ、それ」
まあ、だからこそメルは信頼できるんだが。
メルの主張をまるっと無視して俺は続けた。
「みんな俺に何を求めているんだ? 特殊スキルとはいっても、俺のスキルには『勇者』や『賢者』とは違って大した恩恵がないってもう分かっているだろうに。この国だって特に危機でもなければ、事件もない。女神の間違いなんだって! この顔は生来のもんだし、俺だって普通の17歳の男。ただ勉強しなくてもできてしまう優秀な頭を持っていて、生まれつき運動神経まで良くて、たまたま美しく生まれて、たまたま女神のミスで『特殊スキル美』なんて訳のわからんものを持たされただけの普通の男なんだ!」
「……たまたま筆頭公爵家の嫡男に生まれて、たまたま王族に溺愛されて、ってのも追加しておけ」
「それもな! ……って、とにかく俺は、普通の男なんだよ! いや、むしろ中身は普通よりも堅実な小心者だといっていい。なのになんでこんな目にあうんだっ! 俺は嫁になりたいんじゃない、嫁が欲しいんだ!」
バンバンとベッドを叩いて嘆いてみせれば、俺の側近はしれっとこう返してきた。
「無理だ。お前のファンだって、嫁になりたいわけじゃない。信者としてお前を崇拝しているだけだ。そもそも、自分より顔のいい男の嫁になりたい女なんていない。そしてお前より顔のいい女などいない。諦めろ。アイクが自分より顔のいいお前を嫁にしてくれるだけありがたいと思え」
「メルが俺に冷たい……。お前俺の側近だろぉがよ……お前だけは俺の味方をしろよぉ……夢くらいみさせてくれよぉぉ……」
忖度の一切ない暴言。いくら真実だとしても、ひどすぎる!
半泣きで恨めしくメルを見上げると、メルが珍しく狼狽えた。
「ウィル、それやめとけ。道端の名もなき花が好きな俺ですら、一瞬クラっときた」
「はあ?」
マジマジとメルの顔を見れば、微かに頬が赤くなっている。
俺のこの美貌は、メルみたいな唐変木にすら通用するレベルになったらしい。
なんてこった。
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