勇者、凄かった
結局、「範囲指定可能かどうか」を解明すべく、俺たちは翌日も地下牢に向かった。
威圧の文言を変えてみたり、距離を変えたり、言い方を変えたり。スキル「美」と組み合わせてみたり。
何度も条件を変えて繰り返した結果、俺はある程度までスキルを使いこなせるようになったのだった。
「あー、お前ら、協力ありがとうな! 自分の罪と向き合い、きちんと罪を償うんだぞー!」
「「「はい! ウィリアム様! 罪を償い、あなたのお役に立てるよう精進いたします!」」」
「「「自らの犯した罪を心に刻み、償ってまいります!」」」
うん。なんだか人体実験をしてしまったようで申し訳ないが、荒くれ者だった囚人たちがすっかり従順になり自らの罪を償う気になったのはいいことだろう。
囚人の更生に一役買った、ということで……いいよな?
そうこうするうちに、ゼオが戻ってきた。
門番にはゼオが来たらすぐに通すよう申し付けてあったから、そのままスムーズに俺たちが居た談話室まで入ってくる。
必死で戻ってきたのだろう。あの洒落者が、ボロボロだった。襟が曲がっているし、マントの紐がほどけている。
「待っていてくれたんだね! 良かった! 父上に話はつけた。父上から連合諸国にも話がいくはずだ。それで……我が国最速の小型船を持ってきたから、使ってくれないか? 内装や乗り心地は大型船にも引けをとらないはずだよ」
確かに、往復して戻ってきた日数を考えると、うちの船よりも速そうだ。
この国の船は、貿易に使うのがメインだからとにかくデカイ。客船にしても同様。性能は素晴らしいのだが、デカい分俊敏性には欠ける。
口にしない俺の考えを呼んだのか、ゼオが猛烈な売り込みをしてきた。
「うちは連合間の行き来が多いからね。貿易船というよりも最速の連絡手段として使われることも多いんだ。だから小型化、軽量化に特化している。重量が無い分、大型船よりも速度がでるんだ」
理由を聞けば確かに納得。
どうする、とアイスを見ると、アイスも俺と同じ考えに至ったようで苦々しい表情で頷いた。
「我が国にも船はあるのだが、大型がメインだからね。王家の客船は快適さを重視している分、重量が増え速度は劣る。そうだな……一度見せてくれないか? なにしろ重要地人物が乗るからね。安全性を確保したい」
「ああ、もちろん! 」
「それと……疑うわけじゃないが、船員のチェックもさせてくれ。逃げ場のない海の上で何かあっては《《こと》》だからね。最低限の船員以外は、うちの人員を派遣したい。すまないが、ウィルに慣れている……強靭な理性を持つ専用の護衛じゃないと安心できないんだ」
おもいっきり疑っている発言に、ゼオが苦笑い。
それでも自身俺のスキルを体験したからだろう。特に文句を言うことなく納得してくれた。
「操舵はうちの者に任せて欲しい。ウィルとの接触はさせぬよう尽力するよ。護衛については、アイスリードの言う通りお任せしよう。……正直、私の護衛でもウィルには耐えられないと思う。ウィルに心酔して主人を変えられてしまいそうだしね」
と言ったところで、「失礼」とソファに倒れ込むゼン。
「ふう……すまないが、お茶を一杯いただけないだろうか?」
「ああ。メル、頼む」
「仕方がありませんねえ」
基本的に俺がいるときにはお茶はメルが淹れてくれる。
でないと使用人間で争いが起こるから、要らぬ争いを防ぐための手段だ。
それが分かったのだろう。ゼンが渇いた笑い声をあげた。
「私が言うのもなんだが……ウィルのスキルはなかなか難儀なものだね……。正直、私も直視しないよう気を付けるので精一杯だ。アイスリード、君は平然としているけど、これって慣れるものなのかい? 気を抜くと傅きたくなるんだが……」
「ふ。まだまだ甘いね。こんなものではないよ。我々の道行きに同行したくば、君はもっと理性を鍛えておくべきだ」




