ひれ伏した
振り返った俺が目にしたのは……
「……お前ら、なにやってんだ?」
威圧の範囲外のはずなのに、床に片膝をついているアイスとメルだった。
二人とも本能的な行動だったようで、メルが悔しそうに吠えた。
「ウィルのせいだろうが! なにしてくれてんだよ!」
いい従者の顔を脱ぎ捨てるほどの屈辱だったようだ。
「い、いや、まさかお前らまで……。あー……すまん。一応前方に向かって威圧したつもりなんだが」
つまるところ、俺の声の届く範囲、俺を中心に縁を描くように威圧可能だということか。
うむ。アイスとメルには申し訳なかったが、背後の敵にも有効だと分かったのは有難い。
一方、アイスはまだ片膝をついたまま、なにやら打ちひしがれていた。
「はは……すさまじいな、勇者のスキルは。まさかここまでとは……ふふふ……この私が問答無用で膝まづきたくなった……ウィルなら本望だけどね……はは……」
王族だから、こんなふうに膝まづいたことがなかったのだろう。
「まあ……なんだ。お前は俺に惚れてんだから、惚れた相手に膝まづくくらい、よくあることだ。な?」
「式のときにするつもりだったんだ。プロポーズだってあんな風に勢いに任せたものになってしまったから……。なのにこんなことで……!」
そっちか!ロマンというやつだな。それは申し訳なかった。
だが俺的には幼馴染の親友にそんなことをされるよりも、こっちの方が気分がいい。
言うと怒るだろうから言わないけど。
とにかく、アイスの心に多少の傷を残しつつ。俺のスキルの発動の仕方は分かった。
要するに「俺の気分次第」。意志の力で発動する感じ。
これなら俺にも使いこなせそうだ。
こうして俺のスキルの練習は終わったのだが、俺がとっさに口にした言葉「ひれ伏せ、愚民共」については、後でさんざん揶揄われた。
地下室から出て俺の部屋(という名の客室)に向かいながら、メルが「あなた意外とサドっ気がありますよね」なんてとんでもないことを言い出した。
「はぁ?あるわけないだろ?何言ってんだ!」
すると呆れたような顔でこう説明される。
「あなたなんて言ったか覚えてます? 『ひれ伏せ、愚民共』ですよ。もう少し言い方があったでしょうに」
「うん。まさかウィルの口から『愚民共』なんて聞く日が来るとは思わなかったよね」
「私にまで発動された、つまり私まで『愚民共』に含まれていたことに正直イラッとしました」
メルの怒りはそこか。てか、お前は一応俺の従者で公爵家の使用人なんだから、主人に膝まづくのは問題ないと思うぞ?
「いや、だってさ。アイツらって犯罪者だろう? 犯罪者相手にはそれくらい強い言葉の方がいいと思ったんだよ」
でも、アイスにまで膝を付かせたことは普通に申し訳なかったと思う。
だから一応言い訳しておく。
「あー、お前らにまで発動したのはワザとじゃないぞ? 俺が言ったのって『ひれ伏せ』だろ? 現に牢の中の奴らはみんな地に伏せてたし。でもお前らは膝をついたくらいだよな?つまり、お前らは除外する、って俺が思ってたからだと思うんだよ。そこのところは評価してくれ」
するとアイスが難しい表情で顎に手を当て考え込んだ。
「それって、同じ場所に居ても個別指定ができるっていうことかな? 例えば、三人並ばせてそのうちの一人にだけ発動、とか」
「……無理じゃないか? だってアイスとメルにも効果出たし」
「でも、効果は薄かった。ですよね?であれば、練習を重ねれば細かな範囲指定が可能になるかもしれませんよ? アイスリード様が仰っているのはそういうことなのでは?」
え? そ、そうなのか?
俺の視線を受けたアイスが、「そうだね」と頷いた。
「発動のポイントのようなものは分かっただろう? 2度目で成功というのは、割と凄いことだと思う。さすがはウィルとしかいいようがない。なら、何度か練習を繰り返せば精度があげられるかもしれない。試す価値はあるよ。だろう?」
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