アイスとの距離
学園に休学届を出し、あちこちの国に親書を送り。
急ピッチで諸国漫遊、もとい、外交の準備は整えられた。
俺の下僕となったゼオも、アルメルトのなんたらを引き連れて一旦自国に戻って行った。
「ウィリアム様が訪問する前に直接話を聞きたいと返事があってね。でも、父上に話をしたらまたすぐに戻ってくるから! 戻るまで出立はしないで待っていてほしい!」
必死だった。
とりあえずとてもいい働きをしてくれているし、きっと役にも立ってくれるだろうから、待っていてやろう。
ゼオはいい顔をしないが、俺は利用できるものは利用していくつもりなのだ。
少なくとも、あの気持ち悪いアルメルトのなんたらを俺に近寄らせずに連れ帰ってくれただけでも十分評価に値する。
最初の出会いはアレだったが、今となっては俺の忠臣……は言い過ぎか。……下僕? くらいにはなってくれると思う。
しかもその下僕には更なる下僕、真面目で従順なハインツまでついてくるのだ。
ギリギリまで俺から目を逸らし続けたハインツの丹力たるや! 彼は信頼に値する。
メルと気があいそうだし。
海路を最速で行って最速で戻るというので、ゼオが戻るまでこちらはこちらでできることをすることにした。
衣装の準備はメルと母に任せ、護衛の選別は父とレグおじに任せ。
礼儀作法については問題ないからと、各国の人物相関図と権力図を覚える。
それもあっという間に終わり(俺はこれでも文武両道なのだ)、俺とアイスは「婚約者らしいふるまい」を練習することになってしまった。
「メルの身の安全は『私の婚約者であること』あってこそだ。各国は私たちの婚約に疑念を持っている。そのあたりはゼオライトが何とかしてくれるとは思うが……。それでも、付け入る隙を与えるわけにはいかない」
「うん。まあ、そりゃそうだな」
それはもう説明されていたから、俺も大人しく頷いた。
「だからね。ウィルには婚約者らしいふるまいを学んでもらう。
急にアイスがぐっと俺との距離を詰めて来た。
「……ウィル……」
吐息がかかりそうな距離で目を覗き込まれた。
アイスの夜明けの空のような碧眼に、俺が映る。
吸い込まれそうな碧に一瞬意識をもっていかれ、慌てて両手でアイスの顔を押しのける。
「うわあっ! ち、近い近い近い近いーっ! あとちょっとでキスしちまうところだっただろうが!!」
「ちっ」
「はあ? 今お前、舌打ちしなかったか?」
「え? 気のせいだよ、ウィル。私が舌打ちなんてするわけないだろう?」
……こいつ……俺があのままだったら、キスするつもりだったな。油断できねえ。
そこからも、ウエストに手を回してエスコートされたり、ぴったりとくっつきながらダンスを踊らされたり。
明らかにこれまでとは違う距離で。おまけにこれまでとは違う甘い声で口説かれ続け、正直俺は満身創痍。
防波堤になってくれそうなゼオが戻るのを、待ち遠しくすら思ったのだった。
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作者のモチベーションが爆上がりして踊り狂います。
お陰様で7月に「悪役令息の役どころからはサクッと離脱します。」が書籍化となりました!
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