ゼオライト5
言われたゼオライトは、さすがに決まりが悪かったとみえ、少し視線を逸らした。
俺の顔を見ないようにしている側近(後ろで見守るのはやめてゼオライトの側にいることにしたようだ)も、きゅっと唇を引き結んで「知りません」という顔。
俺は思わずこう言ってしまった。
「あのさあ、もういいってば。だってもう今さらじゃん? 俺の顔にやられてあそこまで失言連発したんだからさ。無礼講で行こうぜ、ゼオ。腹を割って話そう」
いきなり砕けた俺の口調に驚いたジルべリア側近。彼はとっさに俺を直視して「ヤバい」とばかりに慌てて顔をそらした。
その態度、微妙に傷つく。
美形も台無し。ゼオライトは何とも情けない顔で目をシパシパさせ、「え? 今のはウィリアム様が? ゼオ?」と混乱している。
メルが「ふう」とため息をつきぼやいた。
「ウィルは顔だけ見れば天使ですからね。夢を見るんですよ。可哀そうに、中身は普通の、いえ、単細胞ですのに」
憐れみを込めた眼でゼオライトを見るメル。
勝手に夢を見られて迫られた俺の方が可哀そうだろうが。
ムッとする俺の肩をレオンがそっと叩き、無言で左右に首を振った。
「お前も失礼だぞ。俺に惚れてるんなら俺をもっと擁護しろよ」
そうだね、とレオン。
「あー……こほん、私のウィルがすまない。彼は外見に似合わず……その、とても庶民的な感覚を持っていてね。これが彼の素なんだ。可愛いだろう?」
「惚気ている場合じゃないでしょう。せっかく回復したのにまた使い物にならなくなったじゃないですか」
「メルが一番酷いんじゃないか?」
ゼオを見ると……あれ? なんだか目がキラキラしてやがるぞ?
「あの、ウィリアム様。先ほど私を『ゼオ』と? であれば、私もウィリアム様のことをウィルとお呼びしても?」
そっちか!
良いぜ、と俺が言う前にアイスが言った。
「すまないが、ゼオ。ウィルと呼んでいいのは婚約者である私だけなんだ。あなたはリアムとでも呼んでみてはどうだろう?」
「でも、さきほどそこの従者もウィルと」
「……フィンメルは特別なんだ。ウィルの兄弟のようなものだからね。だからあなたはリアムで。私のことはアイスと呼んでもらって構わないよ」
「アイスリード、少し狭量すぎないか?」
「ふふふ。相手にもよるかな。婚約者を目の前で口説かれれば狭量にもなるでしょう?」
ふたりの視線が俺に集中する。
別に構わないが、アイスは怖い。となれば俺の答えは一択だな。
「リアムで」
にっこりしてやると、ゼオの顔がいっきに赤く染まった。
ちょろいな。
「ん゛ん゛! ……こほん。分かりました、ウィル。あなたが望まぬのなら、無理に迫ることはしません。だから、どうか私を側においてもらえないだろうか?」
うん。リアムと呼ぶつもりはないようだ。
「そんなことを許すとでも?」
すぐさま却下したアイスにゼオが苦笑する。
「……うん。分かってる。ウィルは特殊スキル持ちなんでしょう? ……正直に言えば、ジルべリアとしても連合国としてもウィルが欲しい。その能力は見逃せないからね。取り繕っても仕方がない。ここだけの話、みなウィルを手に入れるためにここに来ているんだからね」
「バレバレですがね」とアイスがジロリと睨む。
「だろうね。それでも、私の留学を断ることはできなかっただろう? 正直に言えば、出会ってしまえばどうとでもできると思っていたんだ。もちろん、無理に攫うとかそんな無体を働くつもりはない。幸せでいてもらわないと恩恵が受けられないからね。でも……恥ずかしいけど、これでも私は人気があってね。その気になればウィルを簡単に手に入れることができると思っていたんだ」
さすがに自分でも自信過剰すぎたことを理解しているのだろう。恥ずかしそうに下を向くゼンの耳が赤くなっている。
まあ、俺の顔に比べたら、どんな美形だって霞むというもの。アイスだってメルだってかなりの美形だし。
「は!凄い自信だ。さすがはウィルが女たらしと断じただけのことはあるね」と鼻で笑うアイス。
メルは後ろから無理やり俺の椅子を下げ、ゼオから距離と取らせる。
「ウィル、離れてください。自意識過剰な危険人物です」
警戒態勢の二人に対し、俺は平静だった。
似たようなことを俺自身言ったばかりだったからだ。
そう。
どんな相手だろうと「俺の顔とスキルで簡単に誑し込める」と。
とんだブーメランだ。恥ずかしい。
でもまあ、顔面対決は俺の圧勝。
ゼオは俺を手に入れるのではなく、俺の手先に成り下がった。結果オーライだ。
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