ゼオライト4
俺はスッとソファから立ち上がり、しおれているゼオライトの前にしゃがみこんだ。
「ウィル!」
すぐに上がったアイスの抗議の声など、この際無視だ。
よそ行きの声と表情で語りかける。
「ゼオライト、申し訳ない。言い過ぎました。なんというか、私はこの顔でしょう? 急に距離を詰めてくる相手を信用していないのです。特に婚約者の前で口説いてくるような相手は、ね」
あ。余計にしおれてしまった。正直に言いすぎた。
慌ててフォローの言葉も追加する。
「で、でも、ゼオライトもカッコいいと思いますよ? 身長だって高いし、美形だし。ただちょっと尻軽……ごほん、えっと……遊び人? に見えるだけで」
「ウィリアム様、遊び人は褒め言葉ではありません」
「そ、そうか? うーん……色っぽく見えるだけで? ま、まあ、要するにゼオライトの言葉から察するに、もともと私を色じがけで誑し込むために留学してきたんですよね? なら、適任だと思いますよ? 一般的に見て、普通の女性ならイチコロなんじゃないですか? ただ私が規格外の美形で、アイスみたいな正統派美形を見慣れてるせいで遊び人はアウトなだけで!」
あ。崩れ落ちてしまった。
「褒めたのに!」
「……微妙なところだね」
「ウィリアム様はご自分のお顔を見慣れていますからね。おまけに世間知らずですから仕方ありません」
「だってそもそも男は対象外なんだって! 俺に迫った変態をどう褒めたらいいんだよ! 精一杯やっただろう?」
喧々諤々言い合う俺たちに、ジルべリアストップが入った。
「で、殿下が大変失礼をいたしましたーっ」
「も、申し訳ございませんっ! ですが、ですがっ……もうそれくらいに……っ!」
ズザザッと土下座せんばかりの勢いで頭を下げる護衛衆。
「ゼオライト殿下っ! 大丈夫ですっ! 殿下は一般的にみて類まれな美貌をお持ちでございますっ! お気を確かにっ!!」
側近が後ろから走り出て、俺を見ないように目元を片手で隠しながら、もう片手でゼオライトの背中を撫でている。
「あー……なんか……すまなかったな?」
俺が悪いのか?
「……外交大使……?」
「……出会って数分で相手を沈めましたね……」
アイスとメルの目が痛い。
…………俺が悪いのか?
数分ののち、うって変わってとても大人しくなったゼオライトがいた。
「……醜態をさらしたね。申し訳ない。その……ウィリアム様のようなお美しいお方に会ったのは初めてだったので、我を失ってしまった。バークレー国に対する反意はないんだ。どうか失礼を許して欲しい」
さっきまで呼び捨てだったのに「様」が付いたな。しかも俺の顔から眼をそらしながら、しょんぼりと項垂れている。
こうしてみると、大型剣みたいで可愛い気もしてきた。うん。最初の自信満々遊び人風たらしよりもよっぽどいい。
おい、アイス。もういいから、そう威嚇するな。可哀そうだろうが!
これはもう、スキル使うまでもないんじゃないか?
そう思った俺は、鷹揚に頷いた。
「いえ、全部私の顔がよすぎるせいです。申し訳ない。もっと平凡な顔なら良かったのですが」
神妙な顔で口にした途端、後ろのメルが「こほん!」と咳払いした。
分かってるよ、うるさいぞ! メル!
「とにかく、そういうわけで、私を目的にこの国にいらしたのでしたら、無駄です。私とアイスは外交大使として周辺諸国を訪問させて頂くつもりなので。スケジュールなどはこれから相談することとなりますが、ゼオライト様に、ジルべリア国に顔つなぎいただけたらと。そう思ってご挨拶に伺ったのです」
とたん。
ゼオライトの瞳にハイライトが戻った。
ぱああ、と明るい表情になり、弾んだ声を上げる。
「ジルべリアに? ならばぜひ私に案内させてください!」
身を乗り出すようにしてそう主張するゼオライトを、アイスがすかさず片手で制す。
「すみません。距離が近いですよ? それと、あなたは我が国の貴族学園で学ぶために留学していらしたのではないですか? まだ授業も受けていらっしゃらないではありませんか。お顔繋ぎだけいただければ問題ありませんよ?」
さっき俺が居ないと意味がない、って言ってたの聞いてたクセに、意地が悪いなあアイスは。
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