ゼオライト2
「……うん。私はジルべリア国第二王子、ゼオライト・レイシス。どうかゼオと呼んでくれ。私の知るフィンメルくんのほうと、ぜひよろしくさせてもらいたいな」
俺から目を離さずに言うゼオライト。瞳孔がガン開きなのが怖い。
俺とゼオライトの間に、さりげなくアイスが割って入った。メルに向かってニヤリと笑う。
「良かったな、フィンメル。気に入られたようだぞ?」
「はい。光栄にございます。ですが、私はウィリアム様のお世話で忙しいもので、ご期待にはお応えできないかと」
二人とも笑顔ではあるが、目は全く笑っていない。
ゼオライトの言う「フィンメル」が俺だと確信している顔だ。
アイスが俺を背の後ろに追いやりながら言った。
「ウィル? 後で話がある。楽しみにしておいてね?」
これは後で相当絞られそうだ。
「ところで、アイスリードの婚約者は、噂通りの御人だね。とても美しい。彼ほど美しい人を私は見たことがないよ。特殊スキル持ちだという噂があるが、本当なのかな?」
アイスの横からひょいっと俺の顔を覗き込もうとするゼオライト。「特殊スキル持ち」についていきなり確信を突いてきた。
片手でさり気なくゼオライトの視線を阻むアイス。
おい。
いつもならそれでいいが、今日の目的を何だと思っているんだ?
「アイス、大丈夫だ。話をさせてくれ」
「…………分かった」
不満気に言ったアイスは、俺が背から出るのを阻まない代わりだとばかりに、ぎゅっと俺の腰を抱きよせた。
「すまないね。この通り、私の婚約者は非常に魅力的なものでね。あなたも分かるでしょう? 誘蛾灯のように人を惹きつけるから、心配で。私を狭量な男だと思ってくれて構わない」
特殊スキルについては一切触れず、にこっと微笑んでとんでもない牽制をかますアイス。
だが相手もさるもの。
ひるむことなく返してきた。
「うん。君の心配ももっともだ。こんなに美しいと、是が非でも彼を手に入れたくなるよね」
ああ、もう。らちが明かない。
よし。スキル発動だ。
俺はバチバチしあう二人の間に割り込み、渾身の笑みを浮かべて言った。
「ふたりとも、話をしてもいいかな?」
真正面で俺の全開スマイルをくらった二人。ピタリとその動きが止まる。
そしてぽうっとしたように俺を見つめたままコクリと頷いた。
「うん。よくできました」
にっこり。
すっと頭に手を伸ばせば、その手に引き寄せられたように頭を寄せて来た。
ご褒美待ちか? しょうがないなあ。
ぽんぽん、とその頭を撫でてやる俺の後ろでメルが呟く。
「うわ! えげつない!」
えげつないくらいでちょうどいいんだよ、こういうのは!
すっかり大人しくなったゼオライトをソファに座らせ、その向かいの椅子にアイスと共に座る。
メルには扉の見張りを頼んだ。
「さあ、話しましょう、ゼオライト。俺は本来ならアイスと共にあなたのクラスメートになるはずでした。もうひとりの転入生ともね。だが、そうもいかなくなりました。俺はアイスと共に外交大使として他国に留学することになったのです。だからその前にご挨拶をと思いまして」
酔ったような表情で俺に見惚れていたゼオライトの目に、生気が戻った。
「え? ウィリアムが外交大使? 私のクラスメートになるはずじゃなかったの? 私はそのためにこの国に来たのに……!」
俺の足元に膝まづくようにして必死の形相で俺を見上げるゼオライト。
あーあ。俺が目的でこの国に来たって自ら言っちまったか。
すかさずアイスが「私の婚約者に近寄らないでくれ。言っただろう? 私は狭量なんだ」とゼオライトの襟元を掴んで立たせた。
まるで俺専属の騎士のようだな、アイス。
「す、すまない。つい……」
一旦引いたかのようにみえたゼオライトだが、さすがは強国の第二王子。簡単に引くつもりはないようだ。
アイスではなく俺に向かって再度こう懇願してきた。
「でも、アイスリードと婚約者というのは本当なの? 正式な婚約ではない、と聞いていたのだけれど……。それならば、私にもチャンスが欲しい。あなたに魅せられた憐れな奴隷に、どうかチャンスだけでも与えてはもらえないだろうか?」
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