他国を誑し込もう2
するとアイスが突然ご機嫌になった。
氷点下の表情から、一気に春の雪解けに早変わり。
「……そうなの? ……ふふふ。ウィルは私がいいんだ?」
いや、そこまでは言っていない。他の奴は絶対に無理ってだけで。
……あれ? それってばつまり…………そういうことになるのか?
「は、はは……!」
俺は笑って誤魔化した。
下手につついてこれ以上藪から蛇を出すわけにはいかない。
「……馬鹿だよなぁ、ほんと……」
メル。聞こえてるぞ! 仕方ないだろうが! 怖かったんだから!
俺は話を変えることにした。
「と、とにかくだ! 留学生たちを自国に送り返してやればいいんだ。そういうことだろう?」
「うーん。少し違う気もするけど、当たらずしも遠からずといったところかな」
「俺が『王国の代表として』あっちに行ってやれば、向こうだって無理にどうこうはできない。アイツらだって、俺がいなきゃこっちにいる意味が無い。自国に帰るはずだ。だろ?」
ということで。
ニヤリと唇の端を上げた俺に、メルがボソッと「嫌な予感がする」と呟いた。
うん。さすがはメル。お前の勘は当たりだ。
「だからさ。俺は外交大使として、アイスと一緒に他国に短期留学して回ることにする!」
そう宣言した俺に、アイスが
「はぁ? 外交大使って、そういうこと⁈ それはあり得ない。父上だって反……」
アイスがこれ以上異論を口にする前に、スキル発動!
「…………アイス。俺がそうしたいんだ。協力してくれるよな? 逃げ隠れして生きるのにはうんざりだ。こっちから打って出るぞ!」
至近距離に顔を寄せてめったに見せない満面の笑みを浮かべて見せる俺に、アイスの顔がみるみる赤く染まった。陥落してたまるかとばかりに、ウロウロと目を横に逸らして俺を直視しないようにするアイス。
そう来たか。
それならこの手でいこう。
「アイス。婚約者として、俺を守ってくれるよな? 信頼できるのは、アイスとメルしかいないんだ」
あとは、父さんと母さんと、鉄壁の理性の王宮護衛衆と……という言葉は心の中だけに留め、しおらし気にそっと目を伏せてみせる。
そしてアイスが俺に視線を戻したのと同時に、上目遣いで訴えた。
「頼む。俺に力を貸してくれ」
だってあの変態に俺だけで会うとか、絶対に無理だし。
他国に行ってスキルで誑し込むにしても、隣でアイスが幅を利かせてくれないと俺の貞操が心配だ。
要するに、言葉は悪いが「俺の美貌とアイスの威圧ありきの外交大使」なのだ。
ダメ押しのようにこうも付け加える。
「アイスが協力してくれなくても、俺は行くぞ」
3、2、1……
「仕方がない。行くよ。ウィルを野放しするのは危険すぎる。私が傍で君を守るよ」
よし!落ちた!
ものすごく不本意そうではあるが、言質は取った。
「メルも来てくれるんだろう? 俺の従者だしな」
当たり前のように言うと、不承不承メルも頷いた。
「行くしかないだろうな。アイスリード様はウィルに甘いから。私が躾け……ごほん、見張らないと」
いい側近ぶって作ったような笑顔を見せるメル。
お前今普通に「躾ける」って言いそうになっただろう。バレてんぞこの野郎。
俺的に、俺のスキルに加え「アイスとメルがいれば大丈夫」という謎の自信がある。裏を返せば、この計画にはアイスとメルが必須なわけで。
二人が同意してくれて、正直ほっとした。
俺だって本当はこの国に閉じこもっていたい。
でも、王城と家に閉じ込められる生活にはもううんざりなんだ。
アイスと婚約するというリスクを負うからには、存分に利用させてもらうぞ!
俺はにっこり微笑んだ。
「よし。じゃあ、俺たちで他国の奴らを誑し込もうぜ!」
「ウィル、言い方!!」
あー、まあ、そういうことで!
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