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特殊スキル「美」を持つ令息は、道端の石になりたい。  作者: をち。


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特殊スキルのくせに!俺はやり直しを要求する!

 だが俺のそんな気持ちなどお構いなし。

 

 何の役にも立たなそうな、どうやって役に立てるのかすら分からない「特殊スキル美」。だというのに、気を取り直した観客たちから、何故か怒涛のような歓声と拍手が湧き起こったのだった。

 なんと、強面で知られるガースウィン辺境伯までもが感嘆の声を上げている。


「おお! やはり特殊スキルをお持ちでしたか! 公子の姿を見ているだけでこの無骨な男の目と心が洗われるようです! いやはや、《《スキル美》》とはよく言ったもの。授けられたのが公子ならば、納得ですな!」


 いやいや、納得するなよオッサン! おかしいだろうが! 強面どこに行った?!


 気難しやだと評判のマインド伯爵夫人までが、感動に打ち震えながらこう続けた。


「分かりますわあ! 《《美》》とはすなわち《《天の祝福》》。公子のお姿を目に入れるだけで幸運が訪れるのではないかしら? 素晴らしいわっ!」


 うっとりと頬を染め、胸の前で手を組み涙ぐんでいる。

 俺を拝むな。頼むから冷静になってくれ。

 俺は確かに美しい。が、俺の顔にそんな効果はない。みんなどうかしている。

 

 カオスとなったそこに、大司教の感極まった声が重なった。


「やはりその類まれなるお美しさは、女神に愛されたゆえだったのですな! ああ、この世に天使が実在しようとは……っ! この老骨、ここまで生きてきた甲斐がございました!」


 おかしいだろう大司教! 膝をついて祈っている場合じゃない、正気に戻ってくれ! あと、泣くな! 見苦しい!

 

 床に崩れ落ちたままの大司教がそのまま膝で俺にじり寄り、うっとりとした表情で俺を見あげてくる。「顔を赤らめながら、五歳の幼児を崇拝する爺さん」という、正直に言って目にも心にも非常にどうかしている絵面だ。

 俺に向かって伸ばされる爺さんの手をさりげなく避けながら、俺は思った。

 いや、マジでなんだこれ? 俺、勇者じゃないの?


 盛り上がる会場とは逆に、俺の家族関係者全員の表情はスンとしていた。見事に全員目が死んでいる。

 それはそうだろう。公爵家の長《《女》》ならまだしも、嫡《《男》》に「特殊スキル美」。いったい何の役に立つというのだ。

 繰り返すが、ガースウィン伯たちが期待するような「見ただけでどうのこうの」という訳の分からん効果なんぞ、俺の顔にはない。

 そんな効果があるのなら、誰よりも俺や俺の家族に幸運が与えられているはずだ。だがこれまでのところそんな兆しは全くない。むしろこの顔はトラブルしか生んでいない。

 

 現に父と母は、俺に授けられたスキルを聞いて頭を抱えている。


「どうしてこんなことに……」

「こんなスキル聞いたこともないわ! なぜうちの子に……!」

 

 まるで呪いでも受けたかのような嘆きっぷりだ。

 分かるぞ。更なるトラブルの予感しかしないもん。

 マジで勘弁してくれ女神!

 スキルが「美」だって? それがスキルだというおかしさはともかく、そんなもんは聖女だとか王妃だとか、とにかく女性に与えるべきだろう。

 「傾国の美女」というのは、女性だからこそ物語になるのだ。「傾国の美男子」なんぞ、ヒモや男娼になる未来しか見えない。いずれにせよロクなもんじゃない。

 俺は普通のスキルで良かったのだ。「剣術」だとか「体術」、百歩譲って「敏捷」などを期待していた。だって強そうだし! 

 特殊スキルっていうから「勇者」かと思ったのに、まさかの「美」? 全然強そうじゃない。それになにより……


「スキル美? 今さらだ! 俺が美しいのは生まれたときからなの! スキルなんて与えられるまでもないんだよっ、クソ女神っ!」 


 クソ女神ッ クソ女神ッ クソ女神ッ

 広々としたホールに俺が叫んだ「クソ女神」が響き渡り、こだました。




 そう。俺は生まれたときから美しい。

 そしてこの美しさのせいで、生まれてからたった五年の間にも、何度も誘拐されかけたり、風呂や着替えの際に侍女や側近にあらぬところをアレされそうになったりと、ロクな目にあっていないのである。

 そのせいで側仕えだってどれだけ交代させたか!

 俺にとって美は「あるからには利用してやるが、ないほうがいい面倒なもの」でしかない。

 だからこそ、この洗礼で得られるスキルに期待していたのに……!

 

 落胆の後、ふつふつと怒りのようなものがこみ上げてきた。

 ふざけてんのか?! なんなんだよ、特殊スキル「美」! 特殊スキルのくせになんの夢も希望もないじゃないか!将来の指針ですらないってどういうことだよ! 「愛し子」とかいうなら、もっと俺に配慮しろよ! 

 俺は震える心のままに叫んだ。


「特殊スキルなんていらないっ! 普通の! 普通の固有スキルでいいから、剣術とか体術とか、そういうカッコいいやつにしろよクソ女神っ! もっと役に立つもんに替えろっ! 大司教、もう一度スキル授与のやり直しを要求する! 俺は強さが欲しいんだっ」


 そう、期待を裏切って申し訳ないが、見た目天使な俺の中身は普通のやんちゃ盛りの男の子。俺が求めていたのは美ではない。強さ、圧倒的な強さなのだ! 

 

「ただでさえこの容姿のせいで両親には苦労をかけているんだ! せめて自分で自分の身くらい守れるようになりたい! 当たり前の願いだろうが!」


 怒りと悔しさでボロボロと涙をこぼしながらそう主張する俺を、大司教(キモイ爺さん)が拝んだ。


「なんと、さすが特殊スキル! 泣き顔すら美しいとは……なんと尊い……!」


 このジジイ、俺の顔しか見ちゃいねえ! これが「特殊スキル美」の力なのか? 

 平和を愛する穏やかでにこやかな貴公子だった俺は、人生で初めて地団駄を踏んで大暴れした。

 

「女神なんて大嫌いだーっ!」


 大嫌いだーっ 大嫌いだーっ 大嫌いだーっ


 こうして俺は120年ぶりに洗礼式で特殊スキルを得た「女神の愛し子」となり、「洗礼式で女神を罵倒し大暴れした世にも麗しい問題児」として歴史に名を残したのだった。

 ちなみにやり直しは却下された。ひとりにひとつ。ひとりにつき一回。それが女神様のお約束なのだと。

 

読んでくださいましてありがとうございます♡

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作者のモチベーションが爆上がりして踊り狂います。



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