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特殊スキル「美」を持つ令息は、道端の石になりたい。  作者: をち。


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12年前~スキル授与式

 十二年前。


 オルシス国高位貴族、筆頭公爵家嫡男にして唯一の子である俺は、一人息子を溺愛する父と母、そして餞別された護衛に囲まれて教会で行われるスキル授与式に参加していた。

 王国では年に一度、五歳の子を集め、洗礼式を兼ねたスキル授与式が行われる。

 平民の子は午前中のうちにスキル授与を済ませており、午後からが貴族の授与式となる。

 

 王都に住む俺と同年代の貴族子弟は十数人。公爵家以上の高位貴族は、俺と第二王子であるアイスリードだけ。

 全員の授与にはそれなりの時間がかかるから、下位の貴族の子弟の授与が終わるまで俺とアイスは別室で待機。みなが終わった後で、俺とアイスの授与が行われることになっていた。


 ちなみに俺の祖父は王弟で、父は現王の従兄弟にあたる。つまり俺は王族と親戚なのだ。

 そして、とある理由から俺は王に溺愛されており、生まれた時から王城に出入りフリー状態。王子であるアイスともまた従兄弟で幼馴染だったりする。

 王家とは家族ぐるみの仲なので、王族であるアイスと一室に閉じ込められても、俺は別に何の緊張もしていなかった。むしろ一人じゃなくて良かったとすら思っていた。

 

「なあ、アイス。どんなスキルが与えられると思う? 俺は戦闘系がいいな。将来は騎士団に入るんだ!」


 鼻息も荒く意気込む俺に、アイスがひょいと肩をすくめて苦笑する。


「うーん。ウィルはそういうのじゃあないと思うな」

「じゃあ、何だと思う?」

「……芸術関連かな? 美術とか?」


 美術のスキルは悪いスキルではないのだが、ご令嬢に人気のスキルだ。もしくは平民の服飾系の職で重宝される。

 いずれにせよ、男にはあまり人気のないスキル。


「えー! そんなのカッコよくない! 俺はもっと男らしいのがいい。父上みたいな剣術なら最高! ある程度は遺伝するっていうから期待してるんだ。で、アイスはどうなんだ? 何がいい?」


「私も剣術か、権謀術数がいいかな。父上と兄上をお助けできるスキルならいいと思っているよ」


 無難な答えを返してニコッとほほ笑むアイス。

 第二王子だから、アイスにはいざというときの「スペア」という役割がある。だから婿入りという選択肢はない。将来は王家に残り王の補佐をするか、新たな爵位を貰って家を興すかの二択。それに有用なスキルがいいということだろう。

 五歳で将来が見えているというのはどんな気持ちなのだろう。好きなことをしてみたいとは思わないのだろうか。

 当たり前のようにそれを口にしたアイスに俺はどこかもやもやした気持ちになった。その気持ちをうまく表現できなかった俺が口にしたのは、こんな言葉。


「ふん、いい子ちゃんめ! 王子というのはもっとわがままなものだろうが!」

「褒め言葉と受け取っておく」

「騎士になりたくなったら俺に言え。俺の相棒にしてやる!」

「あはは! ウィルが騎士になるのは確定なの? うん。じゃあその時にはお願いしようかな」


 笑った! 

 なんだか妙にほっとした俺は、ニカっとアイスに笑いかけた。


「任せておけ! 俺とアイスで王国一の騎士団を作ろうぜ!」

 

 わいわいと過ごしているうちに、時間になっていたようだ。

 コンコン、とノックの音。


「お時間です。どうかご移動のほどを」






 洗礼室には、もうすでに授与の終わった子供たちとその親がひしめいていた。

 俺たちの入場を伝える声に、視線が一斉に俺とアイスに集中する。

 アイスは王子だから期待されて当然として、俺のほうも実はそれなりの期待をされていたりするのだ。

 自慢ではないが、俺は非常に容姿がいい。そのせいで、なにかとてつもないスキルが授けられるのではないかと、周囲から無駄に期待されているのである。

 残念だな、お前たち。そうそう珍しいスキルが出てたまるか! 

 俺の固有スキルは「剣術」もしくは「体術」になるはずなのだ。だってそのために三歳から毎日剣術の腕を磨いてきたんだからな!

 俺は精一杯カッコいい表情を作って胸を張って歩いた。

 

 スキル授与の順番は、俺が先。アイスがトリだ。

 まるで花道のようにさあっと俺の前に道が開く。

 大勢の熱烈な視線にさらされながら、俺はスキル授与の場に進み出た。

 「まあ、なんて綺麗な子なの!」とか「ほぅ……」などと周囲から感嘆の声が湧くのはいつものこと。軽く手を挙げて賞賛の声に応えながら、ゆっくりと歩を進める。

 

 会場の奥。巨大な蓮の葉を象った白磁の上に、20cmほどの大きさの水晶が置かれていた。

 それこそが女神から与えられし「宝珠」。この水晶に触れることでスキル授与が成されるのだ。

 スキルが授与されると、水晶の表面にそのスキル名が現れる親切設計。

 それを水晶の向こうにいる大司教が読み上げてくれるという大変わかりやすいシステムが、スキル授与式なのだ。

 

 初めて目にした宝珠は、一見すると、大きいだけの普通の水晶に見えた。でも、なんというか……そこから不思議な圧を感じる。早く触って、と急かされているかのような……。

 胸の中がざわめく。もしや、俺こそが「勇者」だったりするのか? 

 恐れはない。むしろ、どんなに過酷な道だろうとも、俺は世界を救ってみせる!


 さあ、女神。俺に道を示せ!


 俺が触れたとたん、水晶は「パァッ」を超えて「ビカビカーッ」と強烈な光を放った。

 誰がどう見ても異常事態だ。教会中が真っ白になるほどの鮮烈な光。

 光が収まると、なぜかキラキラ輝くエフェクトのようなものが俺の周りを彩っていた。キラキラは数秒俺に纏わりつくと、そのまますうっと消えていった。


 な、なんだこれ!

 

 俺を含めた誰もが唖然とする中、目を見開いて水晶を見つめた大司教が、感動に打ち震えながら悲鳴のような声で叫んだ。


「なんとっ! 特殊スキルですっ! 120年ぶりに特殊スキルが授けられましたぞおおおっ!」

 

 俺は、顔には出さなかったが、内心「やった! 勇者だ!」と浮かれた。

 厨二だというなかれ、五歳の男児なんてそんなものだろう?

 望みが叶い、勝手に顔がニヤニヤしてしまう。どうだ、俺はやったぞ! 俺は勇者だ! もしくは魔導士? ああ、もうなんだっていい! だって、特殊スキルなんだから!

「勇者」だろうと「賢者」だろうと、特殊スキルの効果は文字通り特殊なのだ。存在するだけで他国への抑止力になるし、価値がある。 

 さあ、特殊スキルはなんだ?! 大司教、さっさと読み上げてくれ!

 会場にいる人たちも俺と同じ気持ちだったに違いない。誰もがワクワクしながら大司教の声を待った。

 

 だが女神は無情だった。

 しんと静まり返ったホールに、大司教の興奮で上擦った声が響き渡る。


「と、特殊スキルは『美』! 『至上の美』です!」


 しーん。

 誰もが耳を疑い、あんぐりと口を開けた。

 当事者である俺ももちろん、ポカンと口を開けている。

 スキルの名は「美」。

 聞き間違いでもなんでもない、「美」。なんなら「至上の」が付いていた。

「それって能力?」と言いたい気持ちはよく分かる。俺も心の底から完全に同じ気持ちだからだ。

 

 俺の口から、高位貴族の子弟には到底相応しくない言葉が飛び出した。


「は? 今なんて?! ふざけてんのかこの野郎! 目が腐ってるのか? もう一度確認しろ!」


 こんなことになるなんて、誰が思っただろうか。

 アイスに先にやってもらうんだった! そうしたらアイスにこのスキルが授けられていたかもしれないのに!

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