プロローグ
側近の襟首を掴んで、俺は叫んだ。
「なあメル、なんでこんなことになった?」
俺の名前はウィリアム・バークレー。オルシス王国の筆頭公爵家であるバークレー家の嫡男だ。
なのに……なんで俺は親友であるはずの第二王子アイスリードの婚約者なんぞにされたんだ?!
掌の中で王命が書かれた書状がクシャりと歪む。
王家はいったい何を考えている? アイスは俺の唯一の親友なのに!
メルがそっと俺の手を掴んで、自分の襟から外させた。
「ウィル、諦めろ。あとその書状ぐちゃぐちゃにすると後で公爵様にドヤされるぞ」
やけに冷静なその物言いがカチンとくる。
お前は誰の味方なんだ? 俺の側近なら俺の味方しろよ!
「後のことなんて知るか! おい、逃げるぞ! すぐに俺の荷物をまとめろ!」
そうだ、とにかく逃げよう。そして後のことは逃げた先で考えればいい。
バタバタと荷をまとめだした俺に、メルは無情にもこう言い放った。
「その顔でどこに逃げるって? どこに逃げてもすぐに見つかるだろう。俺にもできることとできないことがある。諦めたほうがいい。だが、安心しろ。婿入り、いや、嫁入りするときには俺も付いて行ってやるから」
残念ながらメルの言う通り。俺ほど隠れるのに向いていないヤツはいない。
「クソっ! なんで俺が嫁入りしなきゃいけねえんだよ! お前が付いて来ても何の慰めにも……ならないこともないけど! でも、何度も言うが俺は長男で嫡男なんだってー! この公爵家を継ぐはずなんじゃなかったのかよっ!」
※※※※※※※
事の発端は俺のスキルに起因する。
俺の生まれたオルシス国は、女神ヴェリテの加護を受けた国。
はるか昔、人のふりをして人間界に降りた女神ヴェリテは、どこでどうしたのかオルシス国初代王と恋仲になり、初代と共にこの国を興した。ただの荒れ地だったここは、女神の加護によって恵みの地となりついには大国と呼ばれるまでになる。
王が鬼籍に入ると同時に女神は天に還ったが、それでも天からその子孫を見守り続けているのだという。
それが嘘か誠かは分からないが、建国から何百年も経った今でも、女神ヴェリテはオルシス国の国民ひとりひとりにその恵みを与えてくれていた。
平民貴族関係なくこの国の子供はみな五歳になると教会で洗礼を受ける。そしてその洗礼で、女神からひとりひとりに「固有スキル」が授けられるのである。
女神から授けられるスキルというと大層なもののように聞こえるが、実際のところは「家事」「体術」「縫物」「農業」「鍛冶師」エトセトラエトセトラ。要は生活魔法が底上げされるというもの。「こっちの方面の仕事に向いていますよ~。だからちょこっとそこの力を増しておきますね」ということだと思ってもらえば間違いない。
分かりやすい例を説明しよう。
固有スキルの中でも当たりと言われる「剣術スキル」「体術スキル」。このスキルは、お察しの通り騎士や護衛、冒険者などに向いている。
だが、それを持っていれば騎士に、護衛になれるというわけじゃない。
実際、騎士の中でも「剣術」や「体術」スキル持ちは半数くらい。要するに「調理」スキル持ちだって、本人の努力次第で騎士にも護衛にもなれるのである。
結局のところ、「元々ある素質が何なのかを、ちょこっと能力を底上げして教えてくれる」イベント、それがこの国の「スキル授与」の扱いなのだ。
それゆえ、この「スキル授与」は五歳の記念イベントのような扱い。本人の進みたい道とスキルが違っても努力次第でなんとかなるため、「将来が決められてしまう!」みたいな深刻さはない。
でも、進む道を迷っている者にとっては進むべき道を示してくれることもあるから、そう馬鹿にしたものでもない。
大抵の男は幼い頃「剣術スキル」や「体術スキル」に憧れるし、女児には「裁縫」「調理」などが人気。
「俺ってば剣士に向いてるんだって」「私は育成。将来は先生になろうかな」なんて意外と盛り上がったりする。
それに、チリも積もれば山となる。小さな底上げでも「国民全員」となれば話は別。
もともと「その道に向いている」からこそスキルが与えられる。だから自信を持ってスキルの示す道に進む国民が多いのは事実。
剣士になりたい子が「剣術スキル」を得て自分の選択に自信を持ち、これまで以上に努力したりなんてこともある。そうなると、もともとの素質+スキルによるプラス補正+努力によって、例をみないほどの傑出した剣士になることができる。それが職人であれば、素晴らしいものを生み出す名人となる。
「ちょこっとの底あげ」とはいえ、超えられない壁を超える力になる有難いものなのである。
というわけで、実はこの「ちょっとしたスキルによる底上げ」により、オルシス国は一大強国となった。
騎士団は世界最強と言われるようになり、優秀な職人により産業も発展、農業、林業、医術、芸術、あらゆる分野で類を見ない発展を遂げた。
そうなると他国が介入したり、職人を攫ったりなどきな臭いことが起こりそうなものだが、このスキル、うまくしたことに「この国の中でのみ有効」という制限付きなのである。
スキル持ちが他国に出ると底上げされていた能力が消失するため、「他国の犯罪組織による職人の誘拐」などという事態には今のところなっていない。
さすがは女神様だ。
だが、何事にも例外がある。
他国に出ても能力が維持されるスキルがあるのだ。それを「特殊スキル」と呼ぶ。
特殊スキルは、読んで字のごとく「特殊なスキル」だ。
この国に大きな変化があるとき、この国を守り発展させるために与えられる特別なもの、それが特殊スキルだと言われている。ゆえに、固有スキルとは違ってこの国を出ても有効で、その威力もけた違い。
過去の特殊スキルには、魔王を討伐した「勇者」「賢者」「魔導士」などというものがある。特殊スキルもちの彼らは圧倒的な剣術、知識、魔法でこの世界を救い、この国に平和をもたらした。
他にも、多国籍軍の侵略をその強大な魔法で退けたという「雷帝」などもいる。
いずれも、この国に大きな災いが降りかかろうとしたため、国を平定に導くために、女神自ら選んだ子供にこの国を守るために必要な「特殊スキル」を与えたのだとされている。
それゆえ特殊スキル持ちは、大きな変革の前に現れる「女神の愛し子」と言われ、「その時が来るまで」大切に扱われるのだ。
さて。戦乱や混沌の時代の女神の愛し子から幾世紀を経た今。
過去の特殊スキル持ちやスキル持ちのお陰でオルシス国の強さは周辺諸国にあまねく知られ、戦いを挑む国などとうの昔に無くなっている。
実際には特殊スキルなんて100年以上前の物語だけの話。もはや「そんなこともあったらしい」というくらいの伝承のスキルなのだが。
それなのに、今。
平穏なこの時代、この俺になぜかその「特殊スキル」が与えられているのである。
ちなみに、生まれてから十八年経った今でも騒乱や騒動の気配はない。「国の危機」どころか平和そのもの。
俺のこのスキルがなんのために与えられたのか、そもそもなんでこんなスキルを与えたのかも謎のままだ。
今のところ俺の特殊スキルは、俺にとって「災いの元」でしかないのである。
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