外交大使任命2
「その代わりの条件です。俺を外交大使にすること。当たり前だが、婚約解消、もしくは白い結婚前提の婚約。どのみち同性じゃ子供なんてできないんだから、問題ないでしょう? あと、お互いに別に愛する者ができた場合には相談すること。婚約期間は、俺が外交大使として各国を手なずけ危機が去るまで、ということでどうでしょうか?」
どうだ、とばかりに腕を組んで胸を張る俺。
特殊スキル持ちを奪われたくないというのであれば、俺に一時的に「婚約」という分かりやすい鎖をつけておけばいい。その代わり俺が自ら脅威を排除したあかつきには、鎖を外してもらう。
要するにアイスと俺は、親友から仮初の婚約者になり、そしてまた親友に戻る。俺の希望はそれだけ。
とても分かりやすい条件だと思うんだが?
レグおじと父上もするとアイスが不満気に鼻を鳴らした。
「婚約と外交大使については同意する。でも、その他の条件には同意できないな」
「はぁ? 何言ってんだ? 俺だってかなり妥協しているだろうが!」
この俺が親友と婚約すると言っているんだぞ? それだけで俺は最大限譲歩している!
「もう忘れたのか? 私は君を愛していると言っただろう? なのに婚約解消、もしくは白い結婚前提? お互いに別に愛する人ができたら? 認められないな。ウィル、分かっているのかな? この婚約は君を守るためのものなんだよ? 私にはメリットは無い。ウィルを手に入れるという以外の、ね。だから、私の条件は『この婚約が結婚前提のものであること』以上だ。元々婚約とはそういうのもだ。おかしなことを言っているつもりはないけど?」
いや、確かに愛だとかなんだかんだ言ってたけど! それを今言うか?
大人しく「うん」って言っておけばいいだろうがよ!
「はあああ? このクソ王子!」
思わず悪態をつけば、愉快そうに笑われてしまった。
「あはは! 全くウィルは口が悪い。でもそんなところも可愛いと思うよ?」
ちなみにこの間、護衛たちは全力で「聞いていません」アピールしていて、父上とレグおじは生ぬるーい目になっている。
いや、レグおじ。その目をヤメロ。やらかしてんのは俺じゃない、お前の息子だ!
「……全くお前はどうかしてる」
「うん。自分でもそう思うよ。言ったでしょう? 傍で見守っているだけのつもりだった。でも、チャンスが来たからには掴ませてもらう。だからね、ウィル。私を選んで。親友で愛する人、それでいいだろう?」
「……親友だけで充分なんだが……」
「私は足りない。ちなみに、入籍したら白い結婚でいるつもりはないから。覚悟して?」
「な……っ!」
分かってんのかコイツ! 父上たちもいるんだぞ! よくも親の前でそんなこと……!
かぁっと頭に血が上る。
すると、すっと俺の頬に手を伸ばすアイス。愛おし気に目を細めるとこんなことを口にした。
「ふふ。顔が赤いよ? その顔、人前でしないでね。危険すぎる」
「ひぇ……!」
思わず変な声が出た。
どう考えても危険なのはお前の方だ!
「誰だお前! 俺の親友はどこに行った!」
「嫌だなあ、ここにいるでしょう? それともまさか、私以外に親友がいるの?」
「いや、いねえけど! ちくしょう! 言わせるなよ!」
そこで「いやあ、熱いのう……」だの、「冷たい茶を持ってこさせようか」だの現実逃避している親父ども! 隙あらば俺を口説こうとするこいつをなんとかしろ!
「いやあ……熱烈ですねえ……」
呆れたような声。
そうだ! メルがいた!
メル、お前なら分かってくれるだろう? 新湯だと思っていた相手に、親の前で熱烈に口説かれている俺のやるせない気持ち!
きらきらと希望を込めて振り返ると、とてもいい笑顔で黙って首を横に振られた。
「無理です。私は一従者にすぎません。長いものには巻かれる性質なので」
「クソが!」
「ウィル様。陛下の前です。お控えを」
「知るか! レグおじならさっきから全力で聞いてねえふりしてんだろうがよ! 聞こえてんなら息子を止めてくれるよなあ、レグおじ?」
返事は無い。
「ほらな! 聞いてねえからいいんだよ!」
全く、らちが明かない。
「じゃあ、取引だ。俺は卒業までに他国をたらしこ……懐かせる。そうしたら円満な婚約解消ってことでどうだ?」
「つまり、卒業までに他国を抑さえられなければそのまま結婚、ということでいいんだね?」
すかさず言質を取ったとばかりに畳みかけてくるアイス。
よくは無いが、ここが落としどころだろう。
俺は黙って頷いた。
「父上、聞いていらっしゃいましたね? 期限は半年。それまでに他国を押さえられなければ、そのまま婚姻を結びます」
「ああ! 確かに聞いたぞ! ヘンリー、お前もそれでいいな?」
「あ……ウィル。諦めろ」
こうして俺の婚約は決まり、俺の運命のリミットも決まった。
だが問題は無い。外交大使になったらこっちのもんだ。さっさと誑し込めばいい。
俺は俺のスキルを信じている! これまで苦労してきたぶん、今こそ俺の美貌に役に立ってもらう時だ!
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