外交大使任命1
とにもかくにも、俺のスキルの威力は体感いただけたようだ。
レグおじが苦々しい声で室内にいる護衛に告げた。
「今見たことは口外せぬように」
「「はっ!」」
例によって俺を見ないようにしているあたり、見上げた忠誠心だ。
ふうー、と息をついた父上が、重々しく口を開く。
「家族である私すら影響を受けたのだ。あれは、魅了などというものではない。ある種の……息子にこの言葉もどうかと思うが、圧倒的なものに対する畏怖に近い」
心底「不本だ」といわんばかりの苦々し気な表情と口調で頭を抱えている。父親の苦悩というやつだ。
まあ諦めてくれ。こればかりは仕方ない。
「そもそも抗おうという気にすらならなんだ」
レグおじが「まさかあれほどとは……」と額に手を当て首を振った。
うん。その反応も分かる。
俺はさっき初めて「意識して」スキルを使ったのだから。
そう、スキルを受け入れたとたん、スキル「美」の使い方が当たり前のように理解できたのだ。
さんざん「女神め!」だの「クソ女神!」「スキルなんていらねえ!」と叫んだ俺が言うのもなんだが、俺の美貌が招いたこれまでの騒動は、女神のスキルのせいなどではなかったのである。
この美貌は俺の元々のポテンシャルだったのである。
つまるところ、俺も周りもずっと勘違いしていたのだ。スキルの名称のせいで、そのスキルの効果が生来の美貌と混同され、正しく理解されないままだった。
実のところ、「スキル『美』」はこの美貌そのものを指すのではなかったのである。
文字通りの「スキル」。圧倒的な美を制御するためのもの。つまりは生まれもった美貌を使いこなすためのものだったのだ。
むしろもっと早くスキルを受け入れ使ていこなせていたら、俺は王城と侯爵家に閉じ込められずともすんだかもしれない。
勘違いから「不要なスキル」などと濡れ衣を着せてしまった女神にはマジで申し訳なかった。反省はしている。
正直、スキル名だけじゃなくて使い方だとかその理由だとかを託宣してくれたらよかったのでは、と思わなくもないのだが、そこまでは言うまい。
この時代に俺みたいな傾国の美貌の男が生まれたことには、確かに意味があるのだろう。運命のいたずらか、大いなる意志か。
いずれにせよ、女神はそれを利用しただけ。
王国が甘受してきた女神の恩恵による繁栄。それに対する他国の不満の高まり。
有象無象の衆であっても、それがひとつになれば脅威となる。王国対連合国という、史上最大の戦。
その日は水面下で刻一刻と近づいていたのだ。
そこに現れた俺。至上の美貌を持った俺だ。
女神は多分、一石二鳥を狙ったんだと思う。スキルを与えることで俺を助け、争いを回避させることにした。
120年ぶりの特殊スキル持ち。しかも勇者や賢者などいかにも戦闘に向いたスキルではなく、前代未聞の「特殊スキル『美』」。
連合国は考えたはずだ。
「戦になれば、両国ともタダでは済まない。多くの血が流れ、犠牲を産む。ならば、連合国から圧力をかけ特殊スキル持ちと『婚姻を結ぶ』という形はどうだ? そうすれば連合側は戦をせずとも友好的に女神の恩恵を手中に収めることができる。王国側も戦では使いようのない『美』というスキル持ちを手放すことで戦を回避できるのだ、了承するのではないか」
こうして俺のあずかり知らぬところで戦は回避され、連合の法が改正された。
俺の都合と女神の都合が合致した結果の俺のスキル。
これは全て俺の勝手な推測に過ぎない。だが、当たらずしも遠からずといったところだろう。
「実際、俺を政治的に利用しようと他国が連合を組んだんだろう? 表立って喧嘩を売ってくるなら対処できるが、予め法を変え虎視眈々と時期を狙い一見平和的な『政略婚』を目論むような奴らだ。俺とアイスの婚約の『匂わせ』程度でなんとかなるとは思えない」
淡々と確認していく俺に、父上が目を丸くした。
「俺は男なのに、とかクソッタレ、とか言わんのか?」
いや、言ったけど!いつの話だよ!
この流れで言うわけないだろうが。俺はどういう息子だと思われているんだ?
「俺は男だ! だが同性婚可能だっていうんなら、言っても無駄だろ。それくらいは俺にだって分かる。だからこそアイスとの婚約なんだろう?」
俺だってできれば親友と婚約なんてしたくない。当たり前だ。
だが、怖い目にあって改めて自分の置かれた状況と婚約におけるメリットとデメリットを考えた結果、今はそれがベストだと判断した。




