覚悟を決める
腹をくくったとたん、俺の中で何かがガシャンガシャンとハマっていった。
あるべきものがあるべき場所に収まるような感覚。
そうか。これが、そうなのか。
たぶん、俺はきっと自分のスキルを受け入れていなかった。
俺が美しいのは当たり前。スキル授与される前からそうだったから、「スキル『美』」と名付けられたせいで起こるゴタゴタを「女神のせいだ」と恨む気持ちが大きかったのだ。
「スキルさえなければ平凡に生きられたのに」と勘違いしてさえいた。
俺は間違っていた。生まれついての美なんだから、スキルだと名付けられなくても平凡になど生きられなかった。
俺はこの美を受け入れ、その上で強く生きるべきだったのだ。この「スキル『美』」は非凡な美貌を持って生まれてしまった俺の生きる道を示してくれていたのに。
急に乗り気になった俺に驚くアイスとメル。
うん。ごめん。
この感覚をどう伝えたらいいのか、わからないんだ。だから、俺は笑う。
「アイスに同じ気持ちを返せるかわからない。だけど、親友が婚約者になったっていいよな? だがこれだけは言っておく。お前は俺が同じ気持ちを返せるまで俺に手を出すなよ? そっちの期待はするな」
パチリと瞬きをしたアイスが。パンパンと服を払いながら立ち上がった。
「はいはい。分かっている。無理に手を出すほど馬鹿じゃない。そんなことをしても、ウィルの心は手に入らないからね。大丈夫。ウィルは私を好きになるから」
「あはは! 言ってろよ!」
まだついてこれないメルが、困惑したように声を上げる。
「……なあ、これって、ウィルは婚約するってことでいいんだよな? 無理してんじゃねえよな? どうしてもってんなら、俺もウィルに協力するぞ?」
俺と二人の口調になってるぞ。メル。
だけど、ありがとう。
「大丈夫。覚悟を決めただけだ。てか、俺のスキルの意味が分かった。後で教えるわ! とりあえず、また誰かに会う前にとっとと婚約しちまうわ!」
「そうか」とメルが笑う。俺の兄のような顔で。
それからメルは少しだけ下を向き、次に顔を上げた時には出来のいい従者の顔でアイスに向き合った。
「アイスリード様、私の主人をどうかお願いいたします」
「無論。……メル。私にもさっきのような話し方で構わないぞ? きみはウィルに一番近い人だからね」
「……では。………ウィルを頼む。こいつは馬鹿だが、いい奴だ。間抜けだが、可愛いところもある。泣かせるなよ?」
「分かった。ではきみが私がウィルを泣かせぬよう監視していればいい。そのつもりなんだろう?」
「ああ。……これからもよろしくたのむ」
なんていうか、俺の保護者か、お前らは!
てか、馬鹿だの間抜けだのって! こんなときくらい俺をディスるなよ、メル!
そのままの勢いで王の執務室になだれ込む。
先ぶれも出さずに申し訳ないが、緊急事態だ。許せ。
そもそもの発端はレグおじが叩きつけて来た「王命」なんだから、これくらいはいいだろう?
扉を守る護衛に「蜜蝋付きの王家からの手紙」を掲げて見せ、「陛下に呼び出された」と告げる俺。
陛下がじきじきに「ウィルは自由に通すように」と護衛に申し渡してあるおかげで、俺の顔は王城では「天下御免の御免状」扱い。今回用件を告げたのは、単に俺の決意を示したかっただけだ。
なので許可が出るのを待つことなく、「レグおじ様、ウィルです。入りますよ」と勝手に扉を開く。
とたん、満面の笑みを浮べた陛下が、いそいそと椅子から立ち上がって俺に向かって大きく手を広げた。
「ウィルよ、来たか! 手紙は読んでくれたか? さあ、私のことをお父様と。いや、パパでもいい。これで私はウィルの父親だ!」
「いや、まだ入籍してません!」
思わず突っ込んだ俺は悪くない。
後ろでアイスも頭を抱え、メルはスンっと宙を見つめている。
これが陛下が居るときの俺たちの通常仕様だ。
俺に突っ込まれたレグおじが、しょんぼりと眉を下げながら、再度その腕を広げた。
「では、ハグをしよう! さあ、おいで!」
「しませんよ?!」
まったく懲りない親父だ。
俺の婚約、周辺国だのなんだの関係無しに、単に俺を息子にしたかったからじゃねえよな?
思わず胡乱な目をしてしまう俺だった。
これではらちが明かない。
さっさとやるべきことを済ませよう。
「でも、婚約はします。この状況ではそれがベストでしょうし。ゼンなんとかだとか、あの女みたいな王子と婚約させられるのは御免だ。それならアイスの方がいい。だが、それ以上は期待しないで欲しい。親友と婚約する。それだけです」
「今のところは」
すかさずアイスが付け足したのに、苦笑して俺も付け足した。
「……今のところは。今後も変わらない可能性は高いけど」
ふ、とレグおじの空気が変わった。
俺の内面を推し量るかのようにその深い藍色の瞳を細めてじっと見つめる。
「……決意したか。本当に良いのか? 後戻りはできぬぞ?」
「はい。俺のスキルが特殊スキルである以上、逃げ続けてはいられません。前に進むしかない。でしょう?」
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